野良犬のように泥だらけ

焼けた砂が、まるでパンの焦げるような好（い）い匂い

ドブの臭い

青銅（ブロンズ）製の鏡のように鈍く光る泥溜まり

水飴のように光っていたその泥

日が暮れて、市をとりまく山並みが蒼黒く寒く変色する

「空気がいい故（せい）と見えて、こっちへ来たら不眠なんぞすっかり忘れたようになってしまったよ」

かつて聞いたこともないほどの数知れない小鳥のさえずりが、嵐のように吹きこんでくる

まわりの円味がかった平凡な地形に対して天柱山と吐月峰は突兀（とっこつ）として秀でている。

街を見回す。白、灰色、黄緑色、黄土色、と私は学校で使う絵の具に書かれた色の名前を思い出しながら呟く。この街のほとんどは、この四つの色で塗り潰されている。 　この街のイメージカラーは白なんだよ、と、引っ越してきたばかりのころ、父が教えてくれた。清潔で、ニュータウンという新品の街のイメージにぴったりだからだろうか。確かに、駅も、駅前の広場も、学校も、全部真っ白だった。 　街の奥にある森の深い緑や凄みのある黒ずんだ土などは、どんどん街に塗り潰され、淡い四色に飲み込まれていく。