瓦斯体のような若芽に煙っていた欅や楢の緑にももう初夏らしい落ちつきがあった。

東京ではもう桜も木蓮も散り、楓が若葉を拡げはじめていた。

卯（う）の花の咲く時分

初夏の風がそよそよと彼を吹いた。青葉の揮発性の匂いがした。

川に沿って植えられた樹々の若い葉の匂いがした。その緑色があたりの空気の中にしっくりとにじみこんでいるようだった。

初夏の空が青く澄んで絹のように光る

真っ白な入道雲が沸き立つ

白く濁った、熱く甘い夏を含んだ雲

麦秋（むぎあき）によくある薄曇りの日

空がギラギラと白っぽい

春の村は菜の花のにおいに明け暮れる

朝夕の空の模様が春めいて来た事をまざまざと思わせる。北西の風が東に回るにつれて、単色に堅く凍りついていた雲が、蒸されるようにもやもやとくずれ出して、淡いながら暖かい色の晴れ雲に変わって行く。

柳の枝に遊ぶウグイスが、金粉を撒き散らしたように愛らしい

貝殻のように白く光るのは、大方（おおかた）さっきの桜の花がこぼれたのであろう。

笠（かさ）のように垂れかかっている葉桜

蛍の大群はざあざあと音をたてて波打った。それが蛍のせいなのかせせらぎの音なのか竜夫にはもう区別がつかなかった。

木綿の袋越しに見えるホタルの鈍い光

夏を思わせる暑い五月の末

梅雨が明けるのを待ちかねていたように、暑さはどんどん増していった。 　蟬の声が、神去村を囲む山々から降ってくる。空気が澄んでいるぶん、日射しが直接肌に刺さって、ひりひりする。ぬるい風に乗って、草いきれのにおいが家のなかまで入ってくる。稲は穂をのばし、トウモロコシが茎にたがいちがいに実り、スイカはそこらの畑にごろごろしている。夏まっさかりだ。

（梅雨の合間）梅雨の中休み