葉を取られた桃のような裸体

ボタンを引きちぎるほどの勢いで脱ぐ

虫が脱皮するときのように腰の方にガウンをするりと下ろして

作業用のゴム手袋を皮膚でもひきはがすみたいに指から抜きとり

帯を解くらしく織物のきしむ音が妙に冴えて聞こえて来る

（開けてはいけないと感じる不吉なガラスビンを前にして起こる恐怖と好奇心の葛藤）息を詰めたまま金属製のねじ蓋に手をかける。蓋は強く締まっている。このおかしな感じ、まるでガラス壜ではない何かをこじ開けて、口で言えないほど不吉なものを解き放とうとしているような感じはどこからくるのだろう？ 　フレテハイケナイ――カンガエテハイケナイ――。 　声がまた聞こえる。頭のなかではなく、天井のあたりから降ってくる気がする。キョトキョトと周囲を見回す。部屋の空気が重く脈打っている。ベッドも衣類も壁もどくんどくんと脈打っている。蓋にかけた手が震える。震えが背筋を伝い、正座したまま上半身が他愛なく揺れる。《…略…》頭のなかにも部屋のなかにも動悸が響き渡る。嵐のようなその音のほか何も聞こえなくなる。まるで自分自身の心臓の内部にいるみたいだ。視界全体が拍動する。どくんどくんと叫ぶ。イケナイ、イケナイ、イケナイ、イケナイと叫ぶ。頭が割れる！　壜から手を離し、両側から強く 頭蓋 を挟みつける。

ワシワシ食べる

ギャラリーがいる分いつもより大げさに

何かを待っている時はたいてい、微かな恐れと不安で胸がきしむ。

このようなことは一度ですまなかった。次の日、一日隔（お）いてまた次の日、その次の日、どういう都合か同じことが起った。じき消える淡い感じが、度かさなるにつれ明瞭になり、伸子にとって一種悩ましい予感のようになって来た。