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僕が牧舎に入ると、二百頭の羊たちは一斉に僕の方を向いた。《…略…》何頭かは柵から頭をつきだして水を飲んでいたが、彼らは水を飲むのをやめて、そのままの姿勢で僕を見上げていた。彼らはまるで集団で思考しているように見えた。彼らの思考は僕が入口に立ち止まっていることで一時中断していた。何もかもが停止し、誰もが判断を保留していた。僕が動き始めると、彼らの思考作業も再開された。《…略…》好奇心の強い何頭かだけが柵から離れずにじっと僕の動きを見つめていた。
村上 春樹「羊をめぐる冒険」に収録 ページ位置:71% 作品を確認(amazon)
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前後の文章を含んだ引用
......いた。木貼りの壁にはところどころにガラス窓がついていて、そこから山の稜線が見えた。夕陽が右側の羊たちを赤く染め、左側の羊たちに青くくすんだ影を投げかけていた。 僕が牧舎に入ると、二百頭の羊たちは一斉に僕の方を向いた。半分ばかりの羊は立ち、あとの半分は床に敷きつめられた枯草の上に座っていた。彼らの目は不自然なほど青く、まるで顔の両端に湧き出した小さな井戸のように見えた。それは正面から光を受けると義眼のようにきらりと光った。彼らはじっと僕を見つめていた。誰も身動きひとつしなかった。何頭かは口の中に入れた枯草をかたかたという音を立てて嚙みつづけていたが、それ以外には物音ひとつしなかった。何頭かは柵から頭をつきだして水を飲んでいたが、彼らは水を飲むのをやめて、そのままの姿勢で僕を見上げていた。彼らはまるで集団で思考しているように見えた。彼らの思考は僕が入口に立ち止まっていることで一時中断していた。何もかもが停止し、誰もが判断を保留していた。僕が動き始めると、彼らの思考作業も再開された。八つに分断された柵の中で羊たちは動き始めた。牝を集めた囲いの中では牝たちは種牡のまわりに集まり、牡羊だけの囲いの中では彼らはあとずさりしながらそれぞれに身構えた。好奇心の強い何頭かだけが柵から離れずにじっと僕の動きを見つめていた。 羊たちは顔の両側に水平につきだした黒く細長い耳にプラスチックのチップをつけていた。ある羊は青いチップをつけ、ある羊は黄色いチップをつけ、ある羊は赤いチップをつ......
単語の意味
好奇(こうき)
羊(ひつじ)
好奇・・・珍しい物ごとやまだ知らないことに強い興味や関心を持つこと。また、そのさま。
・・・ウシ科の哺乳動物。ヤギに似た、中型の大人しい家畜。らせん形の角がある。毛は灰白色で、柔らかくて巻き縮む。性質は臆病で、集団をつくって生活する。毛は毛織物の原料で、肉は食用。
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