(飢えで死にかけたとき椰子の林が女に見える)私を取り巻く椰子の樹群が、 変貌 しているのに気がついた。 それは私が過去の様々な時において、様々に愛した女達に似ていた。踊子のように、葉を差し上げた若い椰子は、私の愛を 容れずに去った少女であった。重い葉扇を髪のように垂れて、暗い蔭を 溜めている一樹は、私への愛のため不幸に落ちた齢進んだ女であった。誇らかに四方に葉を放射した一樹は、互いに愛し合いながら、その愛を自分に告白することを 諾 じないため、別れねばならなかった高慢な女であった。彼女達は今私の臨終を見届けるために、ここに現われたように思われた。
昇平, 大岡「野火(のび) (新潮文庫)」に収録 ページ位置:23% 作品を確認(amazon)
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瀕死・虫の息
ヤシの木
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前後の文章を含んだ引用
......れた。幾度か私はこういう空を、違った緯度の下で、似通った気持で眺めたことがあった。 私は過去を探り、その時を確めようとした。記憶はなかなか来なかった。その時私は私を取り巻く椰子の樹群が、変貌しているのに気がついた。 それは私が過去の様々な時において、様々に愛した女達に似ていた。踊子のように、葉を差し上げた若い椰子は、私の愛を容れずに去った少女であった。重い葉扇を髪のように垂れて、暗い蔭を溜めている一樹は、私への愛のため不幸に落ちた齢進んだ女であった。誇らかに四方に葉を放射した一樹は、互いに愛し合いながら、その愛を自分に告白することを諾じないため、別れねばならなかった高慢な女であった。彼女達は今私の臨終を見届けるために、ここに現われたように思われた。 私は改めて彼女達と快楽を共にした瞬間を思い浮べた。或る女の腿は別の女の腕の太さしかなかった。しかし快楽の味わいは、死に近づいた私の肉体のメカニスムによって思い......
単語の意味
変貌(へんぼう)
変貌・・・貌(かたち)が変わること。姿を変えること。見た目の様子などがすっかり変わること。変容(へんよう)。「貌」は、訓読みで「かお」「かたち」と読める。
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鋭い目をした野鳥のように飛びこんできた
芝木 好子 / 隅田川暮色 amazon
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ヤシの木の表現・描写・類語(植物のカテゴリ)の一覧 ランダム5
葉柄 の集まる 梢 に、実が小児の頭のように円みを並べていた。
昇平, 大岡「野火(のび) (新潮文庫)」に収録 amazon
(椰子の実)香 わしい 汁 と甘い肉を持つ果実
昇平, 大岡「野火(のび) (新潮文庫)」に収録 amazon
岡本かの子 / 巴里祭
亭々とした華奢 な幹の先の思いがけない葉の繁 みを、女の額の截 り前髪のように振り捌 いて、
岡本かの子 / 河明り
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「生と死」カテゴリからランダム5
涙を流して手を合わせてくれた。
雫井 脩介「火の粉 (幻冬舎文庫)」に収録 amazon
永久に、中有 の闇へ沈んでしまった。
芥川龍之介 / 藪の中
人間も学者も同時に御免蒙 って、モトのアトムに帰り
夢野久作 / ドグラ・マグラ
「植物」カテゴリからランダム5
風もない青空に、黄に化 りきった公孫樹 は、静かに影を畳んで休ろうていた。
梶井基次郎 / 冬の日
その茎はいたいたしくも蔓草のように細って
佐藤 春夫 / 田園の憂鬱 amazon
門の裏側の若蔦の群は《…略…》大きくうねりを見せて動いている潮のようでもある。
岡本 かの子 / 蔦の門 amazon
小さいすてきなおうちの玄関に立つと、プルメリアの花の香りでめまいがした。
よしもとばなな / まぼろしハワイ「まぼろしハワイ」に収録 amazon
高い欅(けやき)が半ば落葉して、細い網のような枝を空にすかしている
国木田 独歩 / 武蔵野 amazon
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