手が震える。必死にイアフォンのコードを引っ張り耳に突っ込む。麻薬中毒がドラッグを求める姿と似ていた。不安感が自分を押し潰す前に、クスリを投与しなくてはいけない。クスリは耳から注入する。ウォークマンの再生ボタンを押した。 　病院の名は、「ビートルズ」だ。この場合の薬剤師はきっと、「ジョージ・ハリスン」で、薬の名前は、「HERE COMES THE SUN」だった。 　ボリュームを上げ目を閉じ、じっと聴く。「It's All Right」と繰り返される。豊田はそれを自分の中で何度も繰り返した。「大丈夫だ。大丈夫だ。It's All Right」と繰り返し、不安感を取り除いていく。二回同じ曲を聴く。

すみれは黙ってミュウの肩に腕をまわす。わたしには口にする言葉が見つからない。だからいつまでも彼女の肩をじっと抱いている。

やさしく撫でるように慰めてくれる

祐子さんの背を撫でて穏やかに言った。

わざとらしく肩を抱きなぐさめる

短距離しか走ったことのない素人が、いきなりマラソンで全力をつくして完走するように必死になる

ウイスキーがまわったせいか、何となく倦（だる）いような、睡たいような気持ちになりつつ

潜在意識というものは、いつも、本人に気付かれないままに常住不断の活躍をして、その人間を根強く支配している

自分でも気づかないうちに口を僅かに開け、はあはあと荒い息を吐き出していた。

頑張りすぎてブレーカーが落ちる