暗い所にいて明るいほうに振り向いた時などの愛子の卵形の顔形は美の神ビーナスをさえ妬 ます事ができたろう。顔の輪郭と、やや額ぎわを狭くするまでに厚く生 えそろった黒漆 の髪とは闇 の中に溶けこむようにぼかされて、前からのみ来る光線のために鼻筋は、ギリシャ人のそれに見るような、規則正しく細長い前面の平面をきわ立たせ、潤いきった大きな二つのひとみと、締まって厚い上下の口びるとは、皮膚を切り破って現われ出た二対 の魂のようになまなましい感じで見る人を打った。
有島武郎 / 或る女(後編) ページ位置:33% 作品を確認(青空文庫)
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美しい顔
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前後の文章を含んだ引用
......まれ出た。髪を自分の意匠どおりに束ねてやるとそこに新しい蠱惑 がわき上がった。葉子は愛子を美しくする事に、成功した作品に対する芸術家と同様の誇りと喜びとを感じた。暗い所にいて明るいほうに振り向いた時などの愛子の卵形の顔形は美の神ビーナスをさえ妬 ます事ができたろう。顔の輪郭と、やや額ぎわを狭くするまでに厚く生 えそろった黒漆 の髪とは闇 の中に溶けこむようにぼかされて、前からのみ来る光線のために鼻筋は、ギリシャ人のそれに見るような、規則正しく細長い前面の平面をきわ立たせ、潤いきった大きな二つのひとみと、締まって厚い上下の口びるとは、皮膚を切り破って現われ出た二対 の魂のようになまなましい感じで見る人を打った。愛子はそうした時にいちばん美しいように、闇 の中にさびしくひとりでいて、その多恨な目でじっと明るみを見つめているような少女だった。 葉子は倉地が葉子のためにして見......
単語の意味
光線(こうせん)
顔形・顔貌(かおかたち)
光線・・・光のすじ。光の線。差してくる光。
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浮世絵にでもありそうな細長い鼻つきをした瓜実顔
谷崎 潤一郎 / 痴人の愛 amazon
顔の醜いのを自認するのは心の賤 しきを会得 する楷梯 にもなろう。
夏目漱石 / 吾輩は猫である
美しさが燃えているような顔
中河 与一 / 天の夕顔 amazon
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白粉の匂いが周吉の鼻に新しい蚊帳のように匂った。
林 芙美子 / 牡蠣「風琴と魚の町/清貧の書 (新潮文庫 は 1-4)」に収録 amazon
顔の皮膚がばかにてらてら光っている。
林芙美子 / 新版 放浪記
急に瘦せすぎたのか、皺が寄って酸っぱい梅干しのような顔になって
野崎 幸助「紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男 (講談社+α文庫)」に収録 amazon
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