海は、まだ黒雲の下にあって、泥絵具で描いたように光のない灰色

こんなに目立っていいのかと思えるほど鮮やかなブルーの海

群青色にはろばろと続いている大洋

チューブから搾ってなすり付けたようなプルシャン・ブルーの、真冬の、陽に輝いた海

海がどこまでも渺々として青い

微紅（びこう）の夕靄（ゆうもや）は一層水面の面積を広く見せた。

水平線が見る間に足の下になるかと、思うと、二、三分もしないうちに、谷から狭（せ）ばめられた空を仰ぐように、下へ引きずりこまれていた。

空はよく晴れて谷川はさらさら鳴りました。

クッションというなら全部クッションだ。 羽根布団（はねぶとん）というなら全部羽根布団だ。 だが、水の中は、溶（と）けて自由な もっといいもの――愛。 跳（は）ねて破れず、爪割（さ）いて 掻き毮（むし）らりょうか――愛。 それで海豚（イルカ）は眼を細めている。 一生、陸に上らぬ。 　これは希臘（ギリシア）の擬古狂詩（ぎこきょうし）の断片をざっと飜訳したものだそうだ。それと同じような意味を父の敬蔵（けいぞう）は老荘（ろうそう）の思想から採って、「渾沌未分の境涯（きょうがい）」だといつも小初に説明していた。

浜辺の足音はサクサク気持ちいい