（道も分からない暗闇に灯したマッチの火に安心を得る）暗闇に点（とも）された火は、また彼の空虚な頭の中に点された火でもあった。彼は人心地を知った。 　一本の燐寸の火が、焔（ほのお）が消えて炭火になってからでも、闇に対してどれだけの照力を持っていたか、彼ははじめて知った。火が全く消えても、少しの間は残像が彼を導いた――

夕暮れのようにほの暗い

赤い鳥居が闇の中で夢のように暗く見えた。

暗い海のように広がる夜の闇

目を開くと闇が油みたいに内にたまってくる

時間が経てば目が慣れるといった生半可な暗闇ではない

陽に照らされた、ぶっちょうづら。まつげが長くて目と目が離れてるのは、彼の父親似。小さい唇は母親似。

天心をややに外（はず）れた月が私の歩いて行く砂の上にも一尺ほどの影を作っていました。

長い間、光線のさしこまぬ牢獄の中にいたため陽の光がくぼんだ眼に、鋭い刃のように突きささる。

まるで夜がそこに結晶しているかのよう