光代はダッシュボードに置かれた道路地図を手に取った。適当なページを捲ると、全面に色とりどりの道が記載されている。オレンジ色の国道、緑色の県道、青い地方道路に、白い路地。まるでここに書かれた無数の道路が、自分と祐一が乗るこの車をがんじがらめにしている網のように思えた。仕事をさぼって好きな人とドライブしているだけなのに、逃げても逃げても道は追いかけてくる。走っても走っても道はどこかへ繋がっている。
吉田修一「悪人」に収録 ページ位置:68% 作品を確認(amazon)
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......う道を走っていた。背後に流れる景色は変わっていくのだが、いくら走っても道の先にはゴールがない。国道が終われば県道に繋がり、県道を抜ければ市道や町道が伸びている。光代はダッシュボードに置かれた道路地図を手に取った。適当なページを捲ると、全面に色とりどりの道が記載されている。オレンジ色の国道、緑色の県道、青い地方道路に、白い路地。まるでここに書かれた無数の道路が、自分と祐一が乗るこの車をがんじがらめにしている網のように思えた。仕事をさぼって好きな人とドライブしているだけなのに、逃げても逃げても道は追いかけてくる。走っても走っても道はどこかへ繋がっている。 嫌な思いを断ち切るように、光代は音を立てて地図を閉じた。その音にちらっと目を向けた祐一に、「車の中で地図見たら、私、酔うとさねー」と嘘をつくと、祐一は、「呼子......
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(路線)それは東西の町を結ぶ路線から、北の山側に向かってまさに盲腸のようにはみ出した、たった三つしか駅のない単線だった。他の路線がどれも互いに交差し、合体しながら、地図の先まで延々と続いているのに比べ、それはあまりにも呆気なく短かった。誰かが気紛れに取り付けた余分な突起、といった風情で、終点の駅はどこにつながることもできないまま、ぽつんと取り残されていた。
小川 洋子 / 盲腸線の秘密「口笛の上手な白雪姫」に収録 amazon
地図が、とてつもなく大きな蛾の翅(はね)のように見える
福永 武彦 / 草の花 amazon
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