そこは決して立派な店ではなかったのだが、果物屋固有の美しさが最も露骨に感ぜられた。果物はかなり勾配の急な台の上に並べてあって、その台というのも古びた黒い漆塗 りの板だったように思える。何か華やかな美しい音楽の快速調 の流れが、見る人を石に化したというゴルゴンの鬼面――的なものを差しつけられて、あんな色彩やあんなヴォリウムに凝 り固まったというふうに果物は並んでいる。青物もやはり奥へゆけばゆくほど堆 高く積まれている。
梶井基次郎 / 檸檬 ページ位置:37% 作品を確認(青空文庫)
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八百屋・果物屋
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前後の文章を含んだ引用
......、とうとう私は二条の方へ寺町を下 り、そこの果物屋で足を留 めた。ここでちょっとその果物屋を紹介したいのだが、その果物屋は私の知っていた範囲で最も好きな店であった。そこは決して立派な店ではなかったのだが、果物屋固有の美しさが最も露骨に感ぜられた。果物はかなり勾配の急な台の上に並べてあって、その台というのも古びた黒い漆塗 りの板だったように思える。何か華やかな美しい音楽の快速調 の流れが、見る人を石に化したというゴルゴンの鬼面――的なものを差しつけられて、あんな色彩やあんなヴォリウムに凝 り固まったというふうに果物は並んでいる。青物もやはり奥へゆけばゆくほど堆 高く積まれている。――実際あそこの人参葉 の美しさなどは素晴 しかった。それから水に漬 けてある豆だとか慈姑 だとか。 またそこの家の美しいのは夜だった。寺町通はいったいに賑 かな通りで―......
単語の意味
鬼面(きめん)
鬼面・・・鬼の顔。鬼の仮面。
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いくつものコールマンが陳列棚の上で礼儀正しくセロファンに包まれている
小川洋子 / 完璧な病室「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
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不器用な刈り方ではあったが、それでも頭のなかを風が吹き抜けてゆくような爽やかさである。
林 芙美子 / 夜猿「林芙美子傑作集 (1951年) (新潮文庫〈第201〉)」に収録 amazon
青いネオン管に彩られた西麻布のショット・バー
浅田次郎 / 伽羅「鉄道員(ぽっぽや) (集英社文庫)」に収録 amazon
(本堂の)堂内は、気味の悪い海峡のように、幾つもの暗流が、渦巻き流れていて
徳永 直 / 太陽のない街 amazon
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