ただ山を歩いただけだった。次第に足が重くなり、なのに心はほぐれていく。大勢で歩いていながら、五感は一人、空に向かっていた。不思議な感覚に惑った。だが確かに感じた。子供の頃からずっと消えることなく心に掛かっていた鬱屈の霧が、ふっと晴れる一瞬があったのだ。《…略…》無心。それこそが霧を晴らす瞬間なのだと気づいていた。
横山 秀夫「クライマーズ・ハイ (文春文庫)」に収録 ページ位置:6% 作品を確認(amazon)
この表現が分類されたカテゴリ
無心
登山・山登り
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前後の文章を含んだ引用
...... だが、それからしばらくして参加した妙義山の尾根歩きが悠木を変えた。行きがかり上、仕方なく参加したというのが本当だったが、悠木はそこで思いもかけない体験をした。ただ山を歩いただけだった。次第に足が重くなり、なのに心はほぐれていく。大勢で歩いていながら、五感は一人、空に向かっていた。不思議な感覚に惑った。だが確かに感じた。子供の頃からずっと消えることなく心に掛かっていた鬱屈の霧が、ふっと晴れる一瞬があったのだ。 その感覚をまた味わいたくて、悠木は休みのたび山へ行くようになった。大抵は安西が一緒だった。悠木は山に惹かれた理由を語らなかったが、安西はいたく喜び、悠木が山歩......<中略>......みだった。黒岩は様々な顔を持っていた。西稜ルート。十九番ルンゼ。ピラミッドフェイス。大スラブルート……。 岩は、悠木を独りにしてくれた。予感は実感へと変わった。無心。それこそが霧を晴らす瞬間なのだと気づいていた。中空の岩に張りついている時、瞬間は継続した。 遅咲きクライマー。安西は夢中で岩を攀じる悠木をそう呼んでからかった。二人の間に某か通ずるものが芽生えたことは確かだ......
単語の意味
鬱屈(うっくつ)
無心(むしん)
晴れ(はれ)
足・脚・肢(あし)
鬱屈・・・気持ちがもやもやしていて元気がないこと。憂鬱になること。
無心・・・1.無邪気なさま。雑念や欲望にまったくとらわれてないさま。
2.正当な理由も無く、人に金品をねだること。
2.正当な理由も無く、人に金品をねだること。
晴れ・・・1.天気がいいこと。雨や霧などが伴わない天気。空に雲が少ない、もしくはまったく無い状態。
2.多くの人から注目されて、光栄に思うこと。待ちに待った、めったにない機会であること。晴れがましいこと。正式なこと。公式なこと。
3.疑いが解けて、自由になること。「晴れて自由の身になる」
2.多くの人から注目されて、光栄に思うこと。待ちに待った、めったにない機会であること。晴れがましいこと。正式なこと。公式なこと。
3.疑いが解けて、自由になること。「晴れて自由の身になる」
足・脚・肢・・・1.動物の胴体の下から左右に分かれて伸びている部分で、歩いたり体を支えるのに用いる部位。とくに、足首から下の部分をさすこともある。
2.台を支える棒状の部分。物の本体を支える、突き出た部分。また、地面に接する部分や、物の下や末端部分。「テーブルの足」
3.歩くこと。走ること。また、その能力。「足が速い選手」
4.行くこと。また、来ること。また、そうするための手段や乗り物。「客の足がとだえる」「足の便がいい」
5. 餅(もち)などの粘り。こし。
6.損失。欠損。借金。また、旅費。
7.その他、足の形や動きから連想されできた表現として、
・食べ物の腐りぐあいや、商品の売れ行き。「足がはやい」
・(脚)漢字を構成する部分で、上下の組み合わせからなる漢字の下側の部分。「照」の「灬(れっか)」、「志」の「心(したごころ)」など。
・雨や雲、風などの動くようす。「細い雨の足」
・(足)過去の相場の動きぐあい。
2.台を支える棒状の部分。物の本体を支える、突き出た部分。また、地面に接する部分や、物の下や末端部分。「テーブルの足」
3.歩くこと。走ること。また、その能力。「足が速い選手」
4.行くこと。また、来ること。また、そうするための手段や乗り物。「客の足がとだえる」「足の便がいい」
5. 餅(もち)などの粘り。こし。
6.損失。欠損。借金。また、旅費。
7.その他、足の形や動きから連想されできた表現として、
・食べ物の腐りぐあいや、商品の売れ行き。「足がはやい」
・(脚)漢字を構成する部分で、上下の組み合わせからなる漢字の下側の部分。「照」の「灬(れっか)」、「志」の「心(したごころ)」など。
・雨や雲、風などの動くようす。「細い雨の足」
・(足)過去の相場の動きぐあい。
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登山・山登りの表現・描写・類語(スポーツのカテゴリ)の一覧 ランダム5
数メートルおきに岩にペンキで記された目印を頼りに山頂を目指さなければならない
湊 かなえ「花の鎖 (文春文庫)」に収録 amazon
(山頂)ようやく山頂に着いた。視界が拓け、俺は思わず、「うわあ」と声を上げた。 草の緑に覆われた、天然の大広間がそこにはあった。
三浦 しをん「神去なあなあ日常 (徳間文庫)」に収録 amazon
山頂が近づくにつれ、木の高さが低くなり、ごつごつとした岩肌が現れだした。
湊 かなえ「花の鎖 (文春文庫)」に収録 amazon
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「スポーツ」カテゴリからランダム5
弦打ちの音が、さながら蝙蝠 の羽音のよう
芥川龍之介 / 偸盗
打球はさながら悪魔の背に乗ったように思い通りの位置へ飛んで行く。
阿刀田 高 / ゴルフ事始め「ナポレオン狂 (講談社文庫)」に収録 amazon
夕暮れの闇はずいぶん深くなっていた。柴の上に散らばった白いゴルフ・ボールは籠いっぱいの関節の骨を撒き散らしたみたいに見えた。
村上 春樹 / ダンス・ダンス・ダンス(上) amazon
ロングホールで障害物も坂もない。小学校の廊下みたいなフェアウェイがまっすぐに続いている
村上 春樹「1973年のピンボール (講談社文庫)」に収録 amazon
芥川龍之介 / 芋粥
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一杯引っかけてスッカリいい心持ちになり
夢野久作 / ドグラ・マグラ
(尿意を我慢)密着した太腿のぬくもりが、次第に下腹部に吸い寄せられ、こぶし程の塊になってゆく。それは鈍い重苦しさを押しつけてくる。《…略…》下腹部の筋肉は尿意に満ちている。《…略…》どんどん重さを増してくる尿意を、きつくきつく締めつけることしかできない。
小川洋子 / 揚羽蝶が壊れる時「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
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