のろのろと這うように車が進む

道路はひどい埃で、前を行く自動車は黄色い土煙の中に隠れてしまって見えない。一塊の黄煙が疾走して行くようだ。

（車内からの風景）坂道の角度が変わると、太平洋が鮮やかな青に染まって視界いっぱいに広がった

他に車はほとんどなく、道の両わきの緑がどんどん過ぎ去ってゆく。《…略…》海の 匂い、ほこりが立つ道の匂い、白い建物。平和なテンポで行きかう人々の、カラフルな服の色。みんなすごい速度でびゅんびゅん遠ざかって行く。

ハロゲンライトの青白い光の中だけにあった峠の道。その光の中に突っ込むようにアクセルを踏み、後輪を滑らせてカーブを曲がる。前方を照らす青白い光塊は、追っても追っても先へ逃げた。

目に映る風景は、瞬く間にうしろへ去っていく。千年杉は形こそ竜に似てるけど、疾走ぶりは巨大な猪そのものだ。せっかくの森の美も、千年杉の速度と激しい突進のせいで、滅茶苦茶な色と形の流れにしか見えない。バケツに入った緑や茶色や赤の絵の具を、横殴りに思いきり壁に叩きつけたみたいな視界だ。

港の方から遠く尾を引く汽笛が聞こえた。

上野から信越線に乗ると、朝の窓の風景は、いつの間にか茫々とした秋の景色だった。あたりはすっかり秋になっている。窓を区切ってゆく、玉蜀黍（とうもろこし）の葉は、骨のようにすがれてしまっていた。

（路面電車）電車の路面が、木琴の鉄板のように凸凹している。

道路はひどい埃で、前を行く自動車は黄色い土煙の中に隠れてしまって見えない。一塊の黄煙が疾走して行くようだ。