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美しい声だった。葉子は、今まで、これほどせつな情をこめて自分の名を呼ばれた事はないようにさえ思った。「葉子」という名にきわ立って伝奇的な色彩が添えられたようにも聞こえた。
有島武郎 / 或る女(前編) ページ位置:83% 作品を確認(青空文庫)
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前後の文章を含んだ引用
......案じ求めているらしかったが、とうとう涙に潤った低い声で、もう一度、 「葉子さん」  と愛するものの名を呼んだ。それは先ほど呼ばれた時のそれに比べると、聞き違えるほど美しい声だった。葉子は、今まで、これほどせつな情をこめて自分の名を呼ばれた事はないようにさえ思った。「葉子」という名にきわ立って伝奇的な色彩が添えられたようにも聞こえた。で、葉子はわざと木村と握り合わせた手に力をこめて、さらになんとか言葉をつがせてみたくなった。その目も木村の口びるに励ましを与えていた。木村は急に弁力を回復して、......
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