時速は五キロ前後。

自動車の列はさっきからまったく前進していない。

車が、数珠繋ぎに街道を伸びている。

多くの輸送トラックのあいだに、まるで無骨なサイの群れに紛れ込んでしまったしなやかなレイヨウのように、銀色のメルセデス・ベンツ・クーペが一台混じっていた。

夏休みのせいか、道がひどく混んでおり、ノロノロ運転が続いていた。

市中を馳（はし）る電車の響きは岸打つ波のごとくに消えつ起りつ

新宿駅に到着すると、車両自体が苦しさに耐えかねたかのように、彼女もろとも乗客たちをホームに吐き出した。

見えない翼で音もなくすべてゆくように、自転車のペダルを踏む足をとめて、静かに坂道を下って行く

水の中から流木が逆茂木（さかもぎ）となって船を邪魔する

とっさにブレーキペダルを踏む

（新人発掘）澄んだ夜空を見渡して、誰よりも先に新しい星を見つけるのは胸躍るものだ。

（盆に亡くなった祖父が現れる）人影は暗い画額から歩み出るように門を 潜り、迎え火に彩られた煙の中を歩み寄ってくる。

（卵巣摘出）不透明な白いビニールの手袋をはめた手が、何本も何本もその肉体の上で交差する。内臓は赤く充血して、鮮やかで、きれいでさえある。そして奥の方から卵巣が引っ張り出される。重さを量るように、一人の医師がそれを掌にのせる。卵巣は、震えるように小さく揺れる。彼女がこれを抱え込んでいた時の痛みが、全部この中に詰まっているかのように、表面がピンと張り詰めて、緊張している。医師がメスの先を表面に突き立てると、一筋の裂け目が走る。

（帰りたくない）降りるべき駅はとうに過ぎていた。《…略…》帰りたくなくて、降りそびれたのだと思う。

「生きていれば成人式だったね」