ぼくらはこのように黙々と生を送っていくことができるのだ。手をのばして定められた量の時間をたぐり寄せ、そのままうしろに送っていくことができる。日常的な反復作業として──

（時間が解決する）日常にはおちはなく、どのような祝いの夜も明けるし、どんな悲しいことも長くは続かない。食べたり、飲んだり、出かけたり、寝たり、 風呂 に入ったり、そういうことの力は憎んだり、愛したり、出会ったり、別れたりするよりも強い気がする。そうでなければ死別の悲しみなど、永久に乗り越えられはしない。体があるかぎり、それを維持する営みは続き、それは人間にとって苦痛ではあるけれどもやはり救いなのだと思う。

時計の針のように正確に日々を過ごす

もらわれて行く犬の仔（こ）のように、毛布問屋へ住み込む

町のゴキブリみたいに町の底を匍（は）いまわって暮らす

平和な風景だ。世界は滞りなく前に進んでいる。

私は大かた半日同じ姿勢で為すことなく暮した。

浅ましい鬼のような人間の多い世の中

（米がない）朝も晩も、かぼちゃ飯で、茶碗を持つのがほんとうに淋しかった。

日々はごく平凡に過ぎていった。