空が色紙細工みたいに

淡い赤黄色に染まった西空

名残の明るみを漂わす空

じょじょにその夕焼けが去っていくとき、何ともわかれがたい気持ちとすがすがしい感謝の気持ちが混じって、切なくなった。 　これからの人生に、たとえ今日のような日はあっても、この空の具合、雲の形、空気の色、風の温度、二度とはないのだ。 　同じ国に生まれた人々が、夕方の町をのんびりと歩いていく。夕食の明かりがともる窓が、夕闇の透明なスクリーンに浮かびあがる。 　そこにあるすべてが、手を伸ばせば水のようにすくえそうだった。つやめいた 滴 がぽたりぽたりとしたたり落ち、コンクリートにはねかえるとき、去ってゆく昼間の陽の 匂いと、濃い夜の匂いの両方をたたえていそうだった。

夕暮れの光の束が、レンブラント（オランダの画家）の絵のように地上を照らす

水平線が、水のヴォリュームを押し上げるように正しい円を画いて取り巻く

青磁色の水平線

地平線の彼方までさえぎる物の何もない広々とした眺め

空は深い海のように碧く、ひろびろと地平のかなたまで遠くはるかに、おなじみどりに澄んでいる。

空が恐ろしく青く、吸い込まれるように遠く、まるでよくできたブルーのゼリーのように、触れることができそうなきちんとしたグラデーションで天上からずっと、さえぎるものの何もない地平線まで続いていた。乾いた空気、乾いた地面。ぽつりぽつりとある建物がくっきりとその広大な眺めに模型のように見えた。

夕方の香りを含む午後遅くの光が、街を透明に照らしていた。路地のひとつひとつに家々からはみだした植木が薄い影を落としていた。

遠くからたそがれを告げる鐘が聴こえていた。

街の燈はまるで狐火のように一つ一つ消えてゆく。仕方なく歩き出した私の目にも段々心細くうつって来る。

（闇に比べて）いくらか黒さを失った夜があった。 　しかし、それとても黒の色調をなにほどか薄くしただけのことで、やはり一様に薄暗い、 黯澹あんたん たる闇が続いていた。ただ一つの光とて見えない。

雨模様の闇がたちこめている

フランスの田舎はなだらかな平野で心がなごむ。

クレーンが動いているのが見える。 　また街が膨らんでいる。白い清潔な空間が私たちの遊び場である空き地を、少しずつ潰していく。今、クレーンが壊しているのは、去年まで雪が降るとみんながソリをもって集まった、小さな裏山だった。整備されて広い公園になるのだという。

河の流れ出た所があたかも切りさいたように 断崖 が二つに分れていた。

坂は、まだまだ続いていた。どこまで続くのだろうと、心配になるくらい長い坂だった。

鬱蒼とした森