謙作夫婦の衣笠村の生活は至極なだらかに、そして平和に、楽しく過ぎた。が、平和に楽しくと云う意味が時に安逸に 堕ちる時に謙作は変な淋しさに襲われた。

生きる事が実際退屈になった。こんな処で働いていると、荒さんで、荒さんで、私は万引でもしたくなる。女馬賊にでもなりたくなる。

生活が、かびのようにつまらなくなった

家畜のようにおとなしい単純な生き方

ひっそりとして人の出入りも稀なほど静かな暮らし

夜中の食欲は 悪霊 だ。個人の人格と独立して機能している。 　アルコールも、暴力も、ドラッグも、恋愛も。多分、ダイエットすら。 　 耽溺 はみんな同じだ。 　善悪ではない、生きている。そしてやがて飽きる。飽きるか、取り返しがつかなくなるか。そのどちらか。 　飽きると知っていても波のようにくりかえしやってくる。姿形を変え、浜を洗い、よせてはかえし、静かに、激しく。 　くりかえす、過ぎていく。 　遠い風景。緊張と緩和がもたらす人生の、永遠の海辺。

朝起きるとできるだけ時間を稼ぐかのようにベッドの中でぼんやり過ごし

とりとめのない一週間だった。どこに行くというあてもない日々の羅列だった。

何の約束も期限も予定もない。ふやけたように実体のない毎日が、いくつもいくつも通り過ぎてゆく。 　わたしは今、生活に関するあらゆる種類の面倒さを猶予されている。

大学を出てまだ就職する口がなく、国へは奔走中と言ってその日その日をまったく無気力な倦怠で送っている人間

ママごとのような慎ましい日々

睡魔が鉛のように重く、打ち克ちがたく私に襲ってくる。

黒ずんだ重い液体のようなよどみを心に感じる

十時の鐘は少し冴（さ）え返って聞えた。

一秒のうちに数分が過ぎ去った奇妙な感覚。

私の苦しみなんて、彼女から言えばコッケイな話かも知れない。

（山目付、山を監視しているが平和でヒマ）春の山に菌（きのこ）を求めているような役

生産的な時間の潰し方がなにひとつできない

ただ漠然と生きてきた

家庭環境がよくない