かき氷がテーブルに到着すると、まずその全容を慈愛のこもった目でひとわたり見回す。 見回したあと、シャジを用心深く抜き取り、氷の頂上を、叱るがごとく、さとすがごとく、いつくしむがごとく、ペンペンと軽くたたく。ついでに周辺もペンペンとたたく。 山盛りのかき氷は、ともすればテーブルの上にハラハラとこぼれ落ちようとする。この剝離、崩落を防止するために、最初のペンペンは欠かすことのできない作業なのである。 このあとは、頂上から攻める人と、山の中腹にトンネルを掘って掘り進む人に分かれる。 頂上から攻める人は性格の明るい人が多く、トンネルを掘る人は暗い人が多かったようだ。 おばさんが因業でない店では、氷をかく前にツユを一ヒシャク底のところに入れておいてくれる。 トンネルを掘る人は、途中でこの〝地下水〟に突きあたり、嬉しく、懐かしく、シャクシャクと氷を突き混ぜたりしてありがたくいただいた。
東海林 さだお「タコの丸かじり」に収録 ページ位置:25% 作品を確認(amazon)
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かき氷
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前後の文章を含んだ引用
......なんだよ」なんて思っていると、思い直したようにもう一杯ツユをかけてくれることもある。「見かけは因業だが、根はいい人なんだ」 と、急に見直したりしたものだった。 かき氷がテーブルに到着すると、まずその全容を慈愛のこもった目でひとわたり見回す。 見回したあと、シャジを用心深く抜き取り、氷の頂上を、叱るがごとく、さとすがごとく、いつくしむがごとく、ペンペンと軽くたたく。ついでに周辺もペンペンとたたく。 山盛りのかき氷は、ともすればテーブルの上にハラハラとこぼれ落ちようとする。この剝離、崩落を防止するために、最初のペンペンは欠かすことのできない作業なのである。 このあとは、頂上から攻める人と、山の中腹にトンネルを掘って掘り進む人に分かれる。 頂上から攻める人は性格の明るい人が多く、トンネルを掘る人は暗い人が多かったようだ。 おばさんが因業でない店では、氷をかく前にツユを一ヒシャク底のところに入れておいてくれる。 トンネルを掘る人は、途中でこの〝地下水〟に突きあたり、嬉しく、懐かしく、シャクシャクと氷を突き混ぜたりしてありがたくいただいた。 かき氷というものは、食べ始めのときはかなり勇んでいるのが、途中で一度、必ずいやになるときがくる。 かき氷の〝倦怠期〟である。 食べているうちに、舌がマヒしてき......
単語の意味
慈しむ・愛しむ(いつくしむ)
慈愛(じあい)
中腹(ちゅうふく)
匙(さじ・しゃじ)
慈しむ・愛しむ・・・かわいがり大切にすること。自分より身分や立場が弱い人に対して、愛情を注ぐこと。
慈愛・・・親が子供に抱くような深い愛情。
中腹・・・山の頂上とふもとの中間あたりの場所。山腹(さんぷく)。
匙・・・スプーン。
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かき氷の味、おいしさを伝える表現・描写(和菓子のカテゴリ)の一覧 ランダム5
大きな氷のカタマリをかき氷の機械の台の上にヨッコラショとのせる。 手でハンドルをタテに回すと、どういう仕掛けかタテの回転運動はヨコの回転運動に変わり、氷がシャキシャキとけずられ、台の下に置かれたグラスの上に少しずつ降りつもっていく。 降りつもって円錐形に盛りあがっていくのを、固唾をのんで見守ったものだった。盛りあがったところに、おばさんは小さな鉄のヒシャクでイチゴ水を一杯だけしゃくってかけてくれる。かき氷のツユは、いつだって足りたことがない。いつも少ないツユをやりくりして、時にはツユの全然かかってない部分を味気なく食べたりして何とかしのいでいた。
東海林 さだお「タコの丸かじり」に収録 amazon
脇腹に突っこまれたシャジは、抜き取るときに十分注意しないと、〝頂上の崩落〟という突然の不幸を招くことがあった。
東海林 さだお「タコの丸かじり」に収録 amazon
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