苦い散薬が口の中へ散り残ったように、いつまでもいやなあと味がぬけないのである。

（詳細な思い出話）喜助の話はよく条理が立っている。ほとんど条理が立ち過ぎていると言ってもいいくらいである。これは半年ほどの間、当時の事を幾たびも思い浮かべてみたのと、役場で問われ、町奉行所（まちぶぎょうしょ）で調べられるそのたびごとに、注意に注意を加えてさらってみさせられたのとのためである。

十七歳のユキの姿は、武内の心に 灼きついて消えない映像のひとつであった。

二人で過ごした場面について、驚くほどよく憶えていた。前後関係やストーリーは全くの空白だったが、その一コマ一コマの色彩を鮮明に焼き付けているのだった。

印象が焼き金を当たられたように鮮明に焼き付く

教えてもらったアドバイスの一つ一つが、耳の奥で回るオルゴールみたいに、繰り返し登場する

過去が華々しいロマンスのいくつかで飾られる

記憶はエネルギーだから、発散されなければ世にもさみしいかたちで体内に残留する。

ワインの銘柄を諳（そら）んじる

故郷の山河が眼前に見えるような気がして来て