山も、川も、おぼろに霞んで、ひとつにとけ合っている風景が、夢のように美しい

緑したたる山の姿が、絵筆もおよびがたいほど、纏綿（てんめん）たる情緒にあふれている

灰色に蜿蜒（えんえん）と続いた山壁

山頂に霧のような薄雲がゆるく流れる

山は見る間に迫ってきて、とうとう山だと認識できないぐらいに山肌が接近した。

奥野画廊は銀座の通りに面していた。絶えず人通りがある。身なりのいい男や、美しい装いをした女の群れが通る。店の前は、そういう群衆の流れる小川のようなものだ。色彩のある水は両方から流れ交う。

前方を屏風（びょうぶ）のように塞（ふさ）いでいる山

電燈の反射をうけて仄（ほの）かに姿を見せている森。

かつて聞いたこともないほどの数知れない小鳥のさえずりが、嵐のように吹きこんでくる

（山から見下ろした夜明けの風景）山裾の靄は晴れ、 麓 の村々の電燈が、まばらに眺められた。 米子よなご の 灯 も見え、遠く 夜見ケ浜 の 突先 にある 境港 の灯も見えた。或る時間を置いて、時々強く光るのは 美保 の 関 の燈台に違いなかった。湖のような 中 の 海 はこの山の陰になっている為 未だ暗かったが、 外海 の方はもう海面に鼠色の光を持っていた。 　明け方の風物の変化は非常に早かった。 少時しばらく して、彼が振返って見た時には山頂のむこうから 湧き上るように 橙色 の 曙光 が昇って来た。それが見る見る濃くなり、やがて又 褪せはじめると、 四辺あたり は急に明るくなって来た。