運命の歯車が狂いだす

（不幸な音也さんを見ると、）女性の生活の様々な、しかし一様に思うようには行っていない標本を眺めているように感じた。

毎日、心の中で助けてくれッ、助けてようと唄のように唸（うな）ってばかりいる。

『一回しか生きられないんだから、全部を受け入れるしかねえんだ』

行くところもないようないまだに苦しい生活の連続でした。私はうんうん唸ってすごして来ました。

気持ちが貧しくなってくると、私は妙に落書きをしたくなってくる。豚カツにバナナ、私は指で壁に書いてみた。

本当にいつになったら、世間のひとのように、こぢんまりした食卓をかこんで、呑気（のんき）に御飯が食べられる身分になるのかしらと思う。

寝転んで新聞を見ていると、きまって目の行くところは、芸者と求妻と、貸金と女中の欄が目についてくる。

乞食を笑いつつ乞食よりもおとれる貧しき生活

明日の無い生活

なんの展望もなくじりじりと枯れてゆくように日々は過ぎてゆく。

「ねむるのが、何よりのたのしみで生きている」

掘立小屋（ほったてごや）同様の所に寝起きをいたして

整理不順になるくらい生活習慣が悪い

世間があまりに浮き浮きして、毎日がお祭りをしているよう

たまたま裏庭の地面を掘っていたら石油が出てきたくらいに希な話

（二十歳の誕生日を迎えた翌年）十代に完全に終止符を打った。

下りずに過ごす人生だって捨てたものではないと思う。生まれてから死ぬまで懸命に走り続ける。転んでも、傷ついても、たとえ敗北を喫しようとも、また立ち上がり走り続ける。人の幸せとは、案外そんな道々出会うものではないだろうか。クライマーズ・ハイ。一心に上を見上げ、脇目も振らずにただひたすら登り続ける。そんな一生を送れたらいいと思うようになった。

（老化）ある年齢を過ぎると、人生というのはものを失っていく連続的な過程に過ぎなくなってしまいます。《…略…》肉体的な能力、希望や夢や理想、確信や意味、あるいは愛する人々、そんなものがひとつまたひとつ、一人また一人と、あなたのもとから消え去っていきます。《…略…》あなたはもうそろそろ三十歳になる。これから少しずつ、人生のそういう黄昏｛たそが｝れた領域に脚を踏み入れようとしておられる。それが、ああ、つまりは年をとっていくということです。

誕生日の数だけ、命日は用意されている。ぼんやりしている暇はないんだ。