死相は、黄ばんだ肌の上にも、薄くなった鼻すじにも、色濃く漂っていた

蝋（ろう）より白い死の顔

唇の色が青インキをつけたように、ハッキリ死んでいた。

死者の生なましく白く、草のような額

苦しみののたうち回った後、ムンクが絵に描きそうな表情で死ぬ

ルックスにはなんの特徴もないかわりに、何ひとつ欠点もなくて、単純にただ男という感じだ。水島と、黒崎と、十和子の電車に押し入ろうとした青年に共通する要素を抽出精製してつくりあげた生き物のよう。

取り立てて褒めるべきところのない地味な造作

すみれは一般的な意味あいではとても美人とは言えなかった。頰がこけて、口はいささか横に広がりすぎていた。鼻は小さくて少し上を向いていた。表情は豊かで、ユーモアを好んだけれど、声をあげて笑うことはほとんどなかった。背が低く、たとえ機嫌の良いときでもつっかかるような口のきき方をした。口紅や眉ペンシルなんて生まれてから一度も手にしたことはなかったと思う。ブラジャーにサイズがあるということだって、正確に知っていたかどうかあやしいものだ。

女子学生は、非常に老けた、疲れきった表情をしていて、それは病気の鳥のような感じだった。

おたふくさまそっくりで、少しも深刻味がない。

かわいそうでかわいそうでたまらない

（これまで体験した人の死より同級生の）死は、もっとくっきりとした輪郭を持っていた。それを両手の上に載せて、重さを感じたり形を眺めたり香りをかいだりできそうだった。両手を離してそれが転げ落ちる時の、こつん、という音さえ聞こえそうな気がした。

（手術）体を切ってしまうと、そこから生気が抜けるというか、オーラが欠けてしまう感覚が常にある。

こんな生きる責務の重い世の中へ親あればこそ生れ来たった子。この世に出ようという意志が子にあって、自ら進んで出て来たわけでもないものを、親は先（ま）ず本能愛以外の明瞭（めいりょう）な責任観念からも、この世に於ける子の運命の最大責務者とならなければならない。

（死人の顔）なだらかな傾斜をもっていた荒井幸夫の顎は、色を変え、うすっぺらになり、そこには既に筋肉の力が働いていないことを示していた。