甥っ子は眠っていて、頬に人差し指で触れると水ぶくれを撫でたような奇妙な柔らかさを感じた。

木の芽のような軟（やわらか）い心

柔らかな頬をさすった感触がまだ手の平に残っている

発酵を終えたばかりのパン生地はとても柔らかい。いつまでもその中に指を埋めていたくなる。

やわらかくてずぶずぶ入っていく感じ

輝いた頬に疲れの色はどこにもない

顔を上げたとき、微かな産毛の光が頬を縁取る

すべすべと真っ白い弾力のある頬

まだ肉の落ちない艶のいい頬

血色のいい頬

（知人の息子）あの作楽井氏の人懐（ひとなつ）っこい眼元がこの紳士にもあるような気がした。

幼稚園の子どもたちが、まるでメダカか、オタマジャクシみたいに見える

甥っ子は眠っていて、頬に人差し指で触れると水ぶくれを撫でたような奇妙な柔らかさを感じた。

傍（そば）で砂いじりしている子はおいたさんと呼ばれるほどの一くせありげないたずらっ子の男児（おとこのこ）

イタリアの古壁画の少女をでも見るように初々しい（娘）

鋼のように硬い

女のような弾力

油気のない肌みたいに

張り付いてくる

手に、蛇をつまんで投げ捨てたような、いやな感触が残る

頬の血色がよくて、アザと見間違えるほど赤い

（顔の）元来の骨格が多角性であって、その骨格通りにふくれ上がるのだから、まるで水気（すいき）になやんでいる六角時計のようなものだ。

その顔には死人の相が表れている

口と耳との間には縦に大きな溝（みぞ）のような凹（くぼ）みができて

いくぶん肉の落ちた頬

（若気の至り）若い年齢の持つエネルギーを止めることは誰にもできなかった。

丸顔の、目のぱっちりした、眉の切れの好い十八九の娘

（赤んぼは）火にあぶったスルメのように、ふんぞり返ってしまって

生れたての、玄米パンよりもホヤホヤな赤ん坊

（エコー写真）その写真を見せられた時、凍りついた夜空に降る雨のようだと思った。《…略…》夜空は深く清らかな黒色で、じっと見続けているとめまいがしそうだった。雨ははかない霧のように空を漂っていた。そしてその霧の中に、ぽっかりそらまめ型の空洞が浮かんでいた。《…略…》そらまめ型の空洞に目を凝らした。夜を濡らす霧雨の音が聞こえてきそうだった。その空洞のくびれた隅にひっかかっているのが赤ん坊だった。それはもろい影の塊で、風がふくと夜の底へはらはら舞い落ちていきそうだった。