(病気への不安)一本の楔、悪い病気の疑いが彼に打ち込まれた。《…略…》彼は往来で医者の看板に気をつける自分を見出すようになった。新聞の広告をなにげなく読む自分を見出すようになった。それはこれまでの彼が一度も意識してした事のないことであった。美しいものを見る、そして愉快になる。ふと心のなかに喜ばないものがあるのを感じて、それを追ってゆき、彼の突きあたるものは、やはり病気のことであった。そんなとき喬は暗いものに到るところ待ち伏せされているような自分を感じないではいられなかった。
梶井基次郎 / ある心の風景 ページ位置:30% 作品を確認(青空文庫)
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不安になる
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前後の文章を含んだ引用
......った。生活に打ち込まれた一本の楔 がどんなところにまで歪 を及ぼして行っているか、彼はそれに行き当るたびに、内面的に汚れている自分を識 ってゆくのだった。 そしてまた一本の楔、悪い病気の疑いが彼に打ち込まれた。以前見た夢の一部が本当になったのである。 彼は往来で医者の看板に気をつける自分を見出すようになった。新聞の広告をなにげなく読む自分を見出すようになった。それはこれまでの彼が一度も意識してした事のないことであった。美しいものを見る、そして愉快になる。ふと心のなかに喜ばないものがあるのを感じて、それを追ってゆき、彼の突きあたるものは、やはり病気のことであった。そんなとき喬は暗いものに到るところ待ち伏せされているような自分を感じないではいられなかった。 時どき彼は、病める部分を取出して眺めた。それはなにか一匹の悲しんでいる生き物の表情で、彼に訴えるのだった。 喬はたびたびその不幸な夜のことを思い出した。――......
単語の意味
往来(おうらい)
愉快(ゆかい)
往来・・・1.行き来(いきき)。行ったり来たりすること。
2.道路。通り。
2.道路。通り。
愉快・・・爽(さわ)やかで快(こころよ)いこと。気分が晴れ晴れして、気持ちがいいこと。
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不安までが心の平衡をさらに狂わした。
有島武郎 / 或る女
胸に苦しい浪が打ち寄せ
太宰 治 / 斜陽 amazon
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「不安」の言葉を含む恐怖の表現・描写・類語(恐怖・不安のカテゴリ)の一覧 ランダム5
漠然とした不安な予感が水のように満ちてきた。
松本 清張 / 真贋の森「松本清張ジャンル別作品集(3) 美術ミステリ (双葉文庫)」に収録 amazon
体の内部にも何ものかが、手をさし入れて、内から、かすかに彼の肉を引きかいているような痛みを交えた不安が、彼の背骨を沿うて下から上ってくる。
野間宏 / 崩解感覚「暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)」に収録 amazon
後から冷水のかかるのを待つ様な不安に襲われながら
正木不如丘 / 行路難
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「心」の言葉を含む恐怖の表現・描写・類語(恐怖・不安のカテゴリ)の一覧 ランダム5
全身の血が見る見る心臓へ集中して、消え込んで行くように感じた。
夢野久作 / ドグラ・マグラ
心臓を踏みつけられているような息苦しさ
村田 沙耶香「しろいろの街の、その骨の体温の」に収録 amazon
胸の動悸は心臓を潰さんばかりであった
山田詠美「新装版 ハーレムワールド (講談社文庫)」に収録 amazon
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顔は透き通るほど青ざめていた。
有島武郎 / 或る女
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