呆れて腹も立てぬというような顔つき

顔がこわばるほどの驚き

顔が稲光を光らせ

茫然たる顔

心当たりのないところに矢が飛んできたという顔

不意に水を浴びたように心が震える

氷を胸に当たられたようにひやりとする

ふと、秋の冷気に似たものが晉作の背筋を走った。思想と名づけるには、あまりに形のなさすぎる、だが感情と呼ぶには、厚味のありすぎる、強いて例えれば、眼にみえない手によって白刃を胸もとにつきつけられたような戦慄感であった。

頭から冷水をかけられたように感じて突っ立つ

血も凍るような不気味さ

窓のブラインドを上げるように表情が明るくなる

うっとうしい雲が晴れてゆくように表情が明るくなる

驢馬のように満足し切った顔

遠くでお祭りがはじまっているような、にこやかな顔

大黒天のように、幸福な顔つきをした老人

信じられるはずもなく、私の瞳は凍りつき、受話器が瞬間、ぐんと遠ざかった。

肝を冷やす

激しく心臓が鼓動し始める

はっと雪子が顔を上げた。教師に突然、名指しされた生徒のようだった。

（開けてはいけないと感じる不吉なガラスビンを前にして起こる恐怖と好奇心の葛藤）息を詰めたまま金属製のねじ蓋に手をかける。蓋は強く締まっている。このおかしな感じ、まるでガラス壜ではない何かをこじ開けて、口で言えないほど不吉なものを解き放とうとしているような感じはどこからくるのだろう？ 　フレテハイケナイ――カンガエテハイケナイ――。 　声がまた聞こえる。頭のなかではなく、天井のあたりから降ってくる気がする。キョトキョトと周囲を見回す。部屋の空気が重く脈打っている。ベッドも衣類も壁もどくんどくんと脈打っている。蓋にかけた手が震える。震えが背筋を伝い、正座したまま上半身が他愛なく揺れる。《…略…》頭のなかにも部屋のなかにも動悸が響き渡る。嵐のようなその音のほか何も聞こえなくなる。まるで自分自身の心臓の内部にいるみたいだ。視界全体が拍動する。どくんどくんと叫ぶ。イケナイ、イケナイ、イケナイ、イケナイと叫ぶ。頭が割れる！　壜から手を離し、両側から強く 頭蓋 を挟みつける。

能面のように無表情

露骨に不快な表情

細かい字でそこに書かれたメッセージを読み取ろうとするみたいに表情を見つめる。

顔は醜く歪み、紅潮している

表情が淵のように蒼ざめて沈んで行く