風雨は激しく、窓外はまるでつなみのような音をたてて樹木が鳴っていた。

部屋にいて、歩道がざあざあ洗われる音を聞いていた。

戸板に当たる雨音

雨音が歌声のよう

雨の音が耳鳴りのように絶え間なく頭の奥で響く

貨物船の霧笛が、群れをはぐれた仔牛のような鋭い悲鳴を上げ始める。霧笛はそれぞれの音階に短く長く闇を貫き、山の方向へ飛ぶ。

不思議な沈黙

風に木立の騒ぐ音が遠く水の流れのように聞えた。

（風呂の中で音楽を聴きながら考える）意識の半分を空っぽにして休ませ、残りの半分で考え事をした。そしてダヴィッド・オイストラフの演奏するシベリウスの音楽は、主にその空っぽの領域を通り過ぎていった。そよ風のように広く開け放たれた入り口から入り、広く開け放たれた出口から出ていった。音楽の聴き方としてはあまりほめられたものではないかもしれない。《…略…》音楽を右から左に聴き流しながら、意識の空っぽではない方の半分でとりとめもなく思考を巡らせた。そういうとき、彼は対象を限定することなくものを考えるのが好きだった。犬たちを広大な野原に放つように、意識を自由に駆けめぐらせるのだ。どこでも好きなところに行って、なんでも好きなことをしてくればいいと彼らに言って、あとは放っておく。彼自身は首まで湯につかり、目を細め、音楽を聴くともなく聴きながらぼんやりとしている。犬たちがあてもなくはねまわり、坂道を転げまわり、飽きることなく互いを追いかけ合い、リスをみつけて無益な追跡をし、泥だらけになり草だらけになり、遊び疲れて戻ってくると、牛河はその頭を撫で、また首輪をつける。その頃には音楽も終わっている。

（ギター演奏、音楽鑑賞）楽曲の全体が、星空のように広大に、遥かに見渡されて、しかも旋律は、星座のように整然と結び合い、決して見失われることがなかった。その多彩な一音一音に耳を澄ますことには、星の光の一つ一つに目を凝らすような楽しみがあり、興奮があった。

戸板に当たる雨音

朝、冷たい霧雨が降っていた。晩あたりは雪になるかも知れない。

雨粒が断続的に窓を叩いていた。時が少しずつ重みを増し、冷ややかな薄闇とまじりあいながら部屋を浸した。電灯の黄色い光が花粉のように空中を漂っていた。

山の緑は満足そうにたっぷりと六月の雨を吸い込んでいた。

杉は、まっすぐ垂直に伸びるので、濡れそぼった窓からは、霞の中に浮かび上がっているその足許だけが見える。