二人の不自然なやり取りに秘密を隠していると直感する

なにかの勘違いかもしれない。 　ふと、胸の裏側がざわりとうずく。 　なにかが、頭から出たがっている。

日比野は優しかった。犬が飼い主の気分を察知するのと、似ている。

彼が 風呂 に入っているときなんの気なしに台所のワゴンの上を見たら１通の封書が目に止まった。 　ひとの手紙なんて見やしないし、まして女文字ではなかったのでどうしてまじまじと見てしまったのかわからない。 　でも何かひっかかる 宛名 の書きかただった。 　だから、反射的に中身を見てしまった。 　そんなことは生まれて初めてすることなのに、なぜか後ろめたさはなく、見なくてはという確信だけがあった。

この三階建ての小さな家では、家族のだれかが泣いていればその空気をかくすことはできないのでしょう。涙が湿度をあげたしめった空気は、私の部屋から階段をつたっていき、ゆっくりと二階のリビングへ降りていき、血のつながった者たちが、なんとなく鼻の頭のうえでその空気を察するのです。

胸をかすめる

「そうか」とハッとする

電光のように天啓が頭に閃く

急に、どこをどう潜んで来たとも知れない、いやなさびしさが盗風（とうふう）のように葉子を襲った。

なんでこんなことに気づかなかったんだろう。 　長い間、森の中を彷徨い歩き、ふと気づくと迷路の出口に立ちつくしている自分を発見する、そんな気分だった。