顔を正面から直射するように見た。

宙で二つの眼は、火花でも出そうに闘った。

それぞれを凝視し合う

いつのまにか結びついていた視線に、愛子はがんじがらめになる。

（覗き込む）女はその男の目のなかの黒目の少し濡れて輪っかになった部分を本当にのぞき込むような気持ちで見つめたから、まるで目薬を無理矢理に注がれたみたいに男はまたたくまに液体のような嫌悪感でいっぱいになった。

（人々の行き交う道路で少女と別れる）「さよなら」 　睦子はその私を見上げ、少しうるんだ目でうなずくと、思い切ったように駅の方へ歩きはじめた。 　人々がすぐ睦子と私の間をさえぎりはじめる。夕方の雑踏の中を遠くなる睦子は、いかにも無力に思えた。薄桃色のワンピースが、大きな背広姿や女たちの間を点のように揺れて、やがて見えなくなった。

目を糸のように細めてみる

見逃してしまいそうなくらいの小さな動きでちらりと見る

あんまりよく鹿を見ましたので、じぶんまでが鹿のような気がして

話しかけられている男の方はどことなく暗い顔つきをしていた。《…略…》彼は両手をテーブルの上に載せ、前に置かれた細長いグラスをじっと眺めていた。まるでその飲みものが彼の人生を変えてしまうような重大な存在で、それについての何かしらの決定をいま迫られているといったような感じだった。