あらゆる可能性の芽が摘み取られて、小さくまとまった人生を送る

（落ちぶれる）自分の肩の星が三つから二つに減ってしまったということは、木谷に、腕の骨をぬきとられたような感じをあたえた

落ちぶれてどろどろになる

断崖に向かって走るレミングの群のように、私の買い物は破滅に向かって突っ走るのだ。

かつては──と僕は思った──僕も希望に燃えた まともな 人間だった。高校時代にはクラレンス・ダロウの伝記を読んで弁護士になろうと志した。成績も悪くなかった。高校三年のときには「いちばん大物になりそうな人」投票でクラスの二位になったこともある。そして比較的きちんとした大学の法学部にも入った。それがどこかで狂ってしまったのだ。 　僕は台所のテーブルに頰杖をつき、それについて──いったいいつどこで僕の人生の指針が狂いはじめたかについて──少し考えてみた。でも僕にはわからなかった。とくに何か思いあたることがあったというわけではないのだ。政治運動で挫折したのでもないし、大学に失望したのでもないし、とくに女の子に入れこんだというのでもない。僕は僕としてごく普通に生きていたのだ。そして大学を卒業しようかという頃になって、僕はある日突然自分がかつての自分でなくなっていることに気づいたというわけだ。 　きっとそのずれは最初のうちは目にも見えないような微小なものだったのだろう。しかし時が経過するに従ってそのずれはどんどん大きくなり、そしてやがてはそもそものあるべき姿が見えなくなってしまうような辺境に僕を運んできてしまったのだ。

干からびたクソみたいな人生。吐き気がする。

人生は複雑なパズル

交通遮断（しゃだん）の孤島か、障壁で高く囲まれた美しい牢獄（ろうごく）に閉じこもっていたような二人

妻の誕生日プレゼント、夫にとっては年貢の取立てのようなもの。僕の場合、お代官様に収めるために普段からお小遣いを貯金している。

三日も四日も家に引きこもっていたりすると、知らず知らず、日に二、三度も着物を着替えたりすることがある。これも単調な時間のながれに何とかして変化をもたせ、気分を引きたてて小説を書こうとしているからなのであろう。