それからまた二人はしゃべらなくなる。あらゆる種類の体液で互いを汚し合いながら、離脱のための激しいダンスを踊る。さっきよりもっと強い刺激を必要としている水島の、あらゆる望みをかなえようと夢中になる。十和子なしでは生きられないと、水島に骨の髄までそう感じさせるためには、どんなことをすればいいのか？　二つの肺から吐き出される湿った息で、部屋全体が白く霞んでいく。

ストーブの炎に照らされたまち子の 肌 が、青く粘りつくように動いていた。

（娼婦とのセックス）僕は本当に何もせずにそこにごろりと寝転んでいるだけだった。彼女が全部やってくれた。手際の良いガソリン・スタンドみたいだった。車を停めて鍵を渡せば、給油から、洗車から、空気圧のチェックから、オイルの点検から、窓拭きから、灰皿の掃除から、何から何までやってくれる。

彼女は天吾の中にある一週間ぶんの性欲を、いつもどおり手際よく引き出し、てきぱきと処理していった。そして彼女自身もそこから十分な満足を味わった。帳簿の数字の複雑な操作に深い喜びを見いだす有能な税理士のように。

倉地と葉子とは互い互いを楽しませそしてひき寄せるためにあらん限りの手段を試みた。葉子は自分の不可犯性（女が男に対して持ついちばん強大な蠱惑（こわく）物）のすべてまで惜しみなく投げ出して、自分を倉地の目に娼婦（しょうふ）以下のものに見せるとも悔いようとはしなくなった。二人（ふたり）は、はた目には酸鼻（さんび）だとさえ思わせるような肉欲の腐敗の末遠く、互いに淫楽（いんらく）の実（み）を互い互いから奪い合いながらずるずると壊（こわ）れこんで行く

「樹木か何か揺さぶられているような」自分の心持

頻（しき）りにときめかけ、縺（もつ）れかけている小娘の肉体

わたしは目の前の、自分を抱いている男の背に腕をまわし、男の身体の重みを受けながら、その男のことが好きだ、気にいっている、などと心の底から思うのだった。

（惚れた男の人相書）お仙の眼は、兇状廻しの人相書へ、惚々（ほれぼれ）と吸われていた。胸のなかには、すぐその男の声や、冷たさや、強さや、いろいろな感情が脈を搏（う）ってひびいてくる。

（欲情）たとえば狭い 廊下 で 偶然 出会頭 に滝人名と 衝突 しかけることがある。そして両方でちょっとまごついて危うく身をかわし、ようやくすり抜けて行き過ぎるような場合がある。そういう時彼は胸でドキドキと血の動くのを感ずることがあった。それは不思議な 悩ましい快感であった。それが彼の胸を通り抜けて行く時、彼は興奮に似た何ものかで自分の顔の 紅くなるのを感じた。