（手紙は）字劃（じかく）や点を平気で増減していて、青年期へ入ったばかりの年齢の現代の若ものに有り勝ちな、漢字に対する無頓着（むとんちゃく）さを現わしていた

彼は見かけに似合わず端正な字を書く。

女っぽい字

愛らしくカールしたπの両足や、ｉの点の思いがけない力強さや、きっぱりとした０の継目

漢学者らしい風格の、上手（じょうず）な字で唐紙牋（とうしせん）に書かれた文句

今まで見たこと無いくらい大きい

あんまり大きな丸太で、見ているとなんだか不思議な気分になってくる。縮尺のおかしな世界に迷いこんだみたいだ。

おもちゃのような小さい魚

豆粒（まめつぶ）のくらい

鬼瓦ぐらいな大硯（おおすずり）

烈風がまともに吹きつけるような強い力

あんまり大きな丸太で、見ているとなんだか不思議な気分になってくる。縮尺のおかしな世界に迷いこんだみたいだ。

小さな綻びが、目立つくらいに大きくなる

絶壁のようにそびえる巨大な物質

柱は脚立のように高く

定規で測ったように綺麗に並んでいるペン字の文章

しゃべれなくなって２日間くらいは、私はしゃべれたときとまったく同じ思考をしていた。たとえば、姉に足を踏まれれば、「痛い。」とはっきり言葉で思った。ＴＶに知っている場所が映れば、「あ、ここはあそこだわ、いつロケしたんだろう。」とまるで口に出しているように思った。 　それを音声にしないことで、微妙な変化が起こってきた。言葉の後ろに広がる色が見えてきたのだ。 　姉が私に優しく接しているとき、私は姉をピンクの明るい光のイメージでとらえた。英語を教える母の言葉やまなざしは、落ち着いた金色、道端で猫を 撫でれば、手のひらを通して山吹色の喜びが伝わってきた。 　そう感じて生きていると、言葉の持つ強烈な限定性が押しつけがましく思えた。 　まだ幼かったから、肌身で知ったのだろう、私はそのときはじめて表現するはしから逃げてゆく言葉というものに、深い興味を持ったのだ。瞬間と永遠を同時に含む道具。

ボールペンの尻をカチカチ叩く

単行本には通例、その内容を一言で象徴するようなキャッチ・コピーが用意される。

さらさらと答案用紙の上を滑る鉛筆の音がとてもよく似合うしんとした雪の日