人の世のうつろいは飛花落葉のはかなさにひとしい

（バロック時代）欧洲（おうしゅう）文芸復興期の人性主義（ヒューマニズム）が自然性からだんだん剥離（はくり）して人間業（わざ）だけが昇華（しょうか）を遂（と）げ、哀れな人工だけの絢爛（けんらん）が造花のように咲き乱れた十七世紀の時代様式

「さて、記憶とはあやふやなものです」響野はつづける。「脳の中にノートブックがあり、中を覗いてみると、思い出すべきことが日本語で丁寧に描かれている。大事なところにはマーカーまで引かれている。そんなことは決してありません。記憶というのはしょせんは脳の中のシナプスの伝達活動によって生じるものです。シナプスの電位変化が記憶となるのです。何年経っても同じ形状で残っている保証はどこにもないでしょう。それこそ記憶とは、思い出そうとしている今この瞬間の自分によって新たに創り出された、『記憶と思われるもの』にすぎないのです。創造物です。まさに、『歴史』が、権力者によって捏造された共通認識であるのと似ています。記憶は生のまま氷温保存されるわけではないのですよ」

川が緩やかに流れるように、物事が繋がっていく

誰しもの心を揺り動かさずにはおかないような時代の焦燥

（時代の流れに逆らえず飲み込まれる）時代というものがのしかかる

革命の嵐が国中を吹きまくる

五代に渡り受け継がれてきた秘伝のタレ

生活全体が、その仏壇のように古風な伝統にみちていた。

（終戦間もなくは）われわれの娯楽といえば、芝居と映画だけの時代だったのである。食べものすら充分でなかった。