まるで自分の人生を、一つの風景として眺めさせられているかのような顔つき

どこかで聞いたことのある名前だった。急いで、頭の中の記憶をひっくり返し、それですぐに探し当てた。

記憶を引っくり返していた。

（朦朧とした意識の状態から記憶がよみがえる）横たわっていると、記憶というものが少しずつ細い流れとして 蘇ってきて、懐かしい岸辺に流れつく舟のように私をかすかにつなぎとめるのだ。

はっきりと思い出そうとあせればあせるほど、つかみどころなくぼやけてゆく記憶の頼りなさ

忘れかけると、怪鳥が羽ばたいてやって来て、記憶の傷口をその嘴（くちばし）で突き破ります。たちまち過去の恥と罪の記憶が、ありありと眼前に展開せられ、わあっと叫びたいほどの恐怖で、坐っておられなくなるのです。

そう云われると謙作にはそれを見たような記憶がかすかにあった。

喉のところまで出掛かっている

一度見たら頭にずっと残る

ここしばらくあったことが、思い出したのではなくものすごいスピードで空気として私のまわりに押し寄せてきた。それはみんな弟といた空間の持つ独特の光に満ちていて、風景や出来事の思い出より何万倍も切実にそのすべてを 蘇らせた。