この時鈴木君の胸のうちにちょっとの間顔色にも出ぬほどの風波が起った。

胃が焼けるような焦燥

「ええ……」 　声がかすれて喉に引っかかり、笑ってごまかしました。きちんと笑えているのかどうかもわかりません。カップを手に取ると指先が震えていることに気付かれそうで、膝の上で堅く両手を組みました。

気が気でない

相手の剣幕に少なからず動揺し、言葉が上滑りするのを感じながら、佃はいった。

彼の分別のあった心は、闘牛者の槍を受けた牡牛のように荒んでしまった。

躍起になる

（人生を諦めた男は逮捕されたことに完結感を得る）私の右腕を 摑 んでおろし、手錠をかけた。何故か、こうなることをひそかにのぞんでいたような、小さな完結感があった。

心はきっと野獣のようにさらにすさんでいた。

獰猛（どうもう）な、とどろくような思いが胸のなかに渦巻く。今夜の雪のように。雪よ降れッ。降りつもって、この街をうめつくして、ちっそくするほど降りつもるがいい。今夜も、この雪の夜も、どこかで子供を産んでいる女がいるに違いない。

堪えがたい焦燥を感じる

解けないクロスワードを相手にしているかのようにいらいらする

何もできないもどかしさに苛立ちだけが募る

悪魔に乗り移られてでもいるように狂おしい

加速的にイライラが増す

わたしの胸は相変わらず気持ち悪くて混乱していたので、説明の中身を一直線に理解することができなかった。いろいろな言葉が仕付け糸のように絡まっていた。

ドアの閉め方があまりにも乱暴で、その音が閉まったあともずっと通りに響いているようだった。

病院からの帰り道の運転は、だから、乱暴になる。東京に帰りたくない。ふるさとにもいたくない。どこかに、どこでもいい、遠いところへ行ってしまいたい。信号が赤に変わったばかりの交差点をつっきることもある。田舎道の交通量の少なさを、恨めしく思いながら。

彼女の存在がこんなにも自分の心を乱す。

電話を受けた母が、僕に知らせるため階段を駆け上がってきた時の乱れた足音が、今も耳に残っている。

心の中をかきむしられるような激しい焦燥

眠れなかった。身体中に不快な熱がこもっていて、苛々の虫が多発的にうずいた。起き上がって喚き散らしたい衝動をどうにか抑えて、布団に 包 まっていた。

その後、私の心に起こった微妙な選択の波、幾千もの思いに満ちた決断の断層をうまく表現できるだろうか。いけない、今止めればごまかせるというこころと、この本といい、あんなに沢山ある私のテープの中から、偶然にもたった一本しかないそれをわざわざ選び出したことといい、彼の心の奥底に潜む嘆きがそんなに叫ぶのなら、聴かせてやるべきなのかもしれない、というこころがひらめきのように 錯綜 した。 　千々に乱れる親切と意地悪、それよりももっと深い親切と意地悪、メロドラマとノンフィクション、いろんなものが混じり合って動きがたくなり、ロマンチックにもなんと、聴かせてあげる方へ傾いた。 　あるカップルの 終焉 を天上から見守るマリア様のような切ない決断だった。

迷いを覚える

わたしは目をむき、手にしていたマグカップを近くにあったテーブルの上に乱暴に載せた。はずみでコーヒーが何滴か、あたりに飛び散った。

軛（くびき）にかかった輓牛（ひきうし）のような柔順な忍耐と覚悟

唇を噛むほど悔やむ

我慢の風船が膨らんでぱんぱんになってバーン

やけくそな気分が胸元へチリチリと焼きつく

ギシギシという音がして、《…略…》どこか床が腐っているのかと思ったら、それは泰山の歯ぎしりの音なのであった。