桜吹雪が、夥しい数の蝶の乱舞に思えてくる

桜の花はすぐに散るから愛しいのです。消えていくほうがよほど良いというのも多いのではないでしょうか。別れた恋人との思い出、大雨の後の川の濁流、天才が一夜限りに吹いたアルトサックスのアドリブ、友人同士のその場限りの会話、一瞬にして消えていくから大切なのです。

生暖かい風の吹いている四月の朝のことである。下宿の三本の小さい桜は、夜来の風にきれいに吹き飛ばされてしまっていた。

彼女の視線が宙をふらつき、何を追っているのかと思えば、風で散った桜の花弁が舞い、落下する経路を眺めているのだと分かる。遊泳し、舞い落ちるそれは最終的に三人の中間あたりの地面に落ち、それぞれの視線がそこに集まった。

満開の八重桜が、雲ひとつなく晴れ上がった空を背景に、時折、花びらを散らせてくる

初夏になると全体が真っ黄になるくらい夏蜜柑がなる故郷

惜し気もなく散る彼岸桜（ひがんざくら）を誘うて、颯（さっ）と吹き込む風

花曇りの空が林の上に眠っているように静か

霜に美しく焼けた桜の葉

豊かな樹々の香りと野鳥のさえずりを風が運んだ