月はまだ上らない。見渡す限り、重苦しいやみの中に、声もなく眠っている京（きょう）の町は、加茂川の水面（みのも）がかすかな星の光をうけて、ほのかに白く光っているばかり、大路小路の辻々（つじつじ）にも、今はようやく灯影（ほかげ）が絶えて、内裏（だいり）といい、すすき原といい、町家（まちや）といい、ことごとく、静かな夜空の下に、色も形もおぼろげな、ただ広い平面を、ただ、際限もなく広げている。

建物の影は暗く、もう明るい陽が照らすことなどないかのように静まりかえっていた。

時計の音が深夜の台所に響いている。

週末の夜ともなると、まるで夢の中に出てくる街のようにシンと静まり返る。

僕たちが喋るのをやめると、それに合わせて街中の誰もが呼吸を止めるかのようだ。

窓の外の風景が次第に蒼ざめた空気のなかへ没してゆく

（雪の夜）空気が全部凍りついてしまったように静かだった。

人の寝しずまる頃

川の水音の他には何も聞こえなかった。町全体が眠り込んでしまったようだった。

朝靄（あさもや）のなかに明けて行く水みずしい外面