私は自分の手と足の運動を、高速度写真を見るように、のろく意識した。

疲れたようにゆっくり歩く

祖母が沼から這い上がるようにしてゆっくりこちらに向かって（階段を）登ってくる。薄暗い階段を、ノソノソと腰の曲った白髪の老婆が登ってくる様は悪夢のようであった。祖母は階段を登り終えると、彼に向かって「このたびは遠い所からようこそおいで下さいました。孫をよろしくお願い致します」と言い残し、登ってくる時と同じ姿勢のまま、ノソノソと階段を降りていった。”沼に住む亀が、老婆に姿を化えて人間界にお告げにやってきた”というような、奇怪なムードにあたり一面包まれ、そのまま時は過ぎた。

蟻のようにゆっくり歩く

ゆっくりと均一な歩調で路地を歩いた。

淋病 患者のように 股 をひらいてのそりのそりとあるく

歩きたての赤ん坊みたいな危なっかしさで駆け出す

私は二度ほど同じ道を廻り、

神主が歩くような風にしずしずと座敷を出て行く

けしゴムみたいに小さな（猫の）足音