（釣られた）フグはおのれの不注意を口惜しむように精いっぱい腹を張って憤る。

釣（つ）り竿（ざお）の先は不注意にも水に浸って、釣り糸が女の髪の毛を流したように水に浮いて軽く震えていた。

釣り糸を垂れている人の姿が置物のように動かない

（釣り人）釣れぬ夜の哲学者、釣れたらただのお調子者

洲の中の環虫類（かんちゅうるい）を糸にたくさん貫（つらぬ）いて、数珠輪のようにして水に垂らす。蘆の根方に住んでいる小鰻（うなぎ）がそれに取りつく、環（わ）をそっと引き上げて、未練に喰い下って来る小鰻を水面近くまでおびき寄せ、わきから手網（てあみ）で、さっと掬（すく）い上げる。

数メートルおきに岩にペンキで記された目印を頼りに山頂を目指さなければならない

シャトルが左右対称にきれいに行ったり来たりしていた。

振り切ったバットから、優雅な放物線を描き、ボールが夜空に舞い上がった。博士の古い大学ノートに書かれていたような放物線だった。ボールは月よりも白く、星よりも美しく、群青色の宙のてっぺんに浮かんでいた。皆がうっとりとその一点を見上げていた。

身体はふわりと宙に浮き、古着の塊のようにぼさっと泥のなかへまた投げ出された。

（山小屋の）窓の外には、夕焼けに染まる山々が遠くまで連なり、教会の鐘の音でも聞こえてきそうな荘厳な空気が漂っているようだった。