仄ほの 白じろい光が対岸から 拡がっていたが、それはほとんど川面で 弾け散って、舟の中ではときおり小さな光のかけらが 瞬くだけであった。

鼠が黙るとあたりはしんとして、時計の音だけが聞こえた。雪がそれ以外の全ての音を吸いこんでいた。まるで宇宙の中に我々二人だけがとり残されたような気分だった。

高い天井の真ん中に小さな明かり取りの窓のようなものが幾つか見えた。しかし月はまだ高く上がっていなかったので、明かりと呼べそうなものはそこから入ってこなかった。仄かな街灯の明かりが屈折に屈折を重ねた末にほんの少しだけその天窓から忍びこんでいたが、殆ど何の助けにもならなかった。《…略…》やがて何かの加減で、部屋にさしこむ光がほんの少しだけ明るさを増した。月が上がってきたのだろうか？あるいは街の光が明るく灯り始めたのだろうか？

（薄暗いバー）場所はいつものアルバイト先なのに、少し不安な暗さが漂っていた。

店内は薄暗く、物の輪郭しか見えない。

遠くの灯はフッと一時に消えた。まるで今見たことが夢だったかのように。

目に沁みるほどの強烈な光

鎔鉱炉から流れ出る液体の鉄に見える（ヘッドライトに照らされた雨の）曲がりくねった道路

電灯が尾を引くようにすうっと消える

ライトがボーっと霞んだ幕のように近づいてくる

トタンは古く、弾くと弾力のない音がする

畳二つをならべたほどのガラス窓いっぱいに、天ノ橋立の景観がのぞまれる部屋

何も映さないスクリーンのようなカーテン

車両の自動ドアが開くところだった。ぷしゅう、と空気が漏れる音がする。

重い扉を背中で押し開ける