僕はことあるごとに稽古を中断しセリフを書き変えた。稽古をしていると彼女の存在が必要以上に強く出過ぎる部分があり、僕と並ぶと左右のスピーカーから出ている音量が違う時のような気持ち悪さを感じることがあった。

歌舞伎の芝居は、実体のない神がかりの恍惚境を招き出す媒体

客席に人が座りはじめる。それぞれが秋の匂いを劇場に運んでくる。歓談の隙間から静かに音楽が聴こえている。人が増えざわめきは徐々に増していく。音楽も音量を上げていき、客席の照明が緩やかに絞られる。まもなく幕が開く。

ステージが暗転する。その間に、デビュー曲の立ち位置につく。この瞬間だけは、あんなにもうるさかった会場から音が消え、メンバーの呼吸音が静かに重なる。

（武道館でのライブ）たったひとりの彼女が何か言うたび一万人以上分の声が一斉に波打つその様子は、まるで、薄皮一枚で包まれている宇宙を指でつっついている神様のようだ。

歌舞伎の芝居は、実体のない神がかりの恍惚境を招き出す媒体

（他人の家の窓を見るなんて）閑（のど）かな趣味だろう

森に囲まれた音楽堂からは木の葉を震わす大音響でロックが聞こえてくる

（能）謡（うたい）というものは読んでわかるところを、やにむずかしい節をつけて、わざとわからなくする術だろう。

毒にも薬にもならないテレビでも見て