伸子は長女であった。勝気な母の多計代のひそかな大望の偶像にされそうなところがあったり、中流家庭の娘として、伸子が望むだけどしどし人生に突入することを許さない掣肘（せいちゅう）があった。このままでは、自分が半分も生きるだけ生きていない。生活が未だ始まっていないという意識が、少くとも過去三年彼女を苦しめつづけて来ていた。

有袋類みたいに子供を抱えて育てる

親というものはどこの親も同じで、吾子をいつまでも児供のように思うている。

寒くもなければ暑くもない、囲いのうちの植物のような生活

（過保護に育てた野菜）丸かじりする野菜は夏の露地ものでないといけない。 　野菜に力がないといけない。 　秋冬の、ビニール栽培ものは丸かじりに向かない。 　だいたい「露地もの」という表現がすでにしておかしい。 　野菜はもともと、すべて露地ものであったはずだ。 　野菜というものは、元来、雨に打たれ風に吹かれ、雨ざらし、野ざらしが当たり前なのだ。 　雨に打たれてしなり、風に吹かれて揺れながら育つものである。 　ビニール栽培の野菜は、風に吹かれて揺れるということが一度もない。ただの一度もない。 　生涯、一度も揺れることなく、シンとして動かない。身じろぎもせずに育ち、花をつけ、実を結ぶ植物というものがあるだろうか。何だかこわい気がする。

「シェパード」は十九世紀のドイツで生み出された警察犬や軍用犬用の犬で、「スピッツ」はキャンキャンとうるさいことで有名な小型犬だ。仕事に忠実で、落ち着いている銀行員については、「シェパード」、ちょっとした物音でパニックを起こしそうな行員については、「スピッツ」と呼んでいる。

暴力とハネムーン期を繰り返すＤＶの加害者

操り人形のようなぎこちない動きで被告人席に腰かけた

原始人のような単純な感情や態度

調子よく跳（は）ね上った空元気（からげんき）だけの言葉