自分の中に何かが芽生えるのを感じた。 　たとえて言えば、気持ちのいい春の 宵、あまりよく知らないけれど好意を持っている女性と待ち合わせをしていて、どこに食事に行こうか、飲みに行こうかと考えながら電車に乗っているときのような浮かれた感じ、今晩やれるかやれないかとかまったく考えなくても、そのひとの整った立ち居ふるまい、私のために装われたスカーフの 柄 とかコートのすそとか笑顔とかをみていると、まるで遠くの美しい風景を見ているように、自分の心までもがきれいになったような気分になれる感じ、ずっと失われていたそういううきうきするものがそのとき、 香るようにふっとよみがえったのだ。

恋愛は常にこのように動揺や不安や悲しさの感情を伴うものなのであろうか？

（別れて）ひとりで道を歩いていると、もう広田さんが恋しかった。別れがたかったんだ、と私は自分の淡い恋のような気持ちを自覚した。

（薄暗いスタジオで女が）まるで闇にぬらぬらと光る美しい彫像のように見えた。

恋のような高揚した気持ち

徳子の体を餅をこね回すようにこね回したい

胸がキューンと切ない思いに締め付けられる

夢うつつのような恋に身も心も浸りきる

ただ怖いのは、柳の枝が 陽 にさらされては次の瞬間大風に揺れるように、桜が咲いては散るように、時がたっていくこと。 　西日のさしこむこの部屋に、寝転んでビデオを見ている彼の背に、この空気に別れを告げて夜がやってくること。ただそれだけのことがいちばんかなしい。

快感が全身をかけめぐり、わたしは再び目を閉じた。彼は年齢を感じさせないほど素早く強烈な動きで、腰を使い、烈しくわたしを突き上げてきた。遠のきかける意識の中で、その後に続く言葉を待ったのだが、彼はもう何も言わなくなった。 　わたしは何度も何度も、数えきれないほど何度も、頂点にのぼりつめ、その都度、自分でも驚くほど大きな声をあげた。