起きている窓はなく、深夜の静けさは暈（かさ）となって街燈のぐるりに集まっていた。固い音が時どきするのは突き当っていく黄金虫（ぶんぶん）の音でもあるらしかった。

（小さな虫が飛び交う）内湾（うちうみ）のように賑やかな溪の空

（小さい虫たちが飛び交う）昆虫。昆虫。初冬といっても彼らの活動は空に織るようである。

どこからともなく蜜蜂の羽音が聞こえてくる。先生の部屋で聞いた羽音の名残りなのか、ただの耳鳴りなのか区別がつかない。しかしそれはどんなにか細く微かでも、それることなく真直ぐ鼓膜を突き抜けてゆく。

飛行機の音ではなかった。耳の後ろ側を飛んでいた虫の羽音だった。蠅よりも小さな虫は、目の前をしばらく旋回して暗い部屋の隅へと見えなくなった。

糸の縫い目に、白い埃のように虱（しらみ）たちがじっとかくれている

ロバみたいに大きな蝶

蟬が力いっぱいさんざめいている。

網戸に止まった蛾が風に効しきれずに何処かへ飛んでいく

油蝉が油を煮るように喧しくなき出した。