(ピアノ)緑川は、『ラウンド・ミッドナイト』をためらいがちに弾き始めた。最初のうち、まるで谷川に足を入れて流れの速さや足場を探る人のように、ひとつひとつの和音を彼は丁寧に用心深く弾いた。テーマが終わり、長いアドリブがそれに続いた。時間が経つにつれ、彼の指は水に馴染んだ魚のように、より敏捷に闊達に動き始めた。左手が右手を鼓舞し、右手が左手を刺激した。
村上 春樹 / 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 ページ位置:20% 作品を確認(amazon)
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前後の文章を含んだ引用
......誰かの遺骨なのかもしれないと灰田青年は思った。ピアノを演奏するときにその袋を楽器の上に置くのは、彼の習慣であるようだった。動作にそういう印象があった。 それから緑川は、『ラウンド・ミッドナイト』をためらいがちに弾き始めた。最初のうち、まるで谷川に足を入れて流れの速さや足場を探る人のように、ひとつひとつの和音を彼は丁寧に用心深く弾いた。テーマが終わり、長いアドリブがそれに続いた。時間が経つにつれ、彼の指は水に馴染んだ魚のように、より敏捷に闊達に動き始めた。左手が右手を鼓舞し、右手が左手を刺激した。灰田青年はジャズにとくに知識があるわけではなかったが、セロニアス・モンクの作ったその曲はたまたま知っていたし、緑川の演奏は芯の通った見事なものだと感じた。ピアノ......
単語の意味
闊達(かったつ)
馴染む(なじむ)
敏捷(びんしょう)
左手(ひだりて)
右手(みぎて)
闊達・・・心が広いさま。小さな物事にこだわらないさま。
馴染む・・・慣れる。慣れて違和感がなくなる。いい感じに調和する。すっかり親しみを感じるようになる。
敏捷・・・動作や頭の回転がすばやいこと。また、そのさま。
左手・・・1.左の手。 ⇔ 右手(みぎて)。
2.左の方向。左側。
2.左の方向。左側。
右手・・・1.右の手。 ⇔ 左手(ひだりて)。
2.右の方向。右側。
2.右の方向。右側。
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