頭の奥にしまわれていた古風な華麗な絵巻が突如として躍り出る

「イノウエ殿。聞かれたことがおありかな。御奉行さまだ。いずれ、パードレ殿もこのお方に 直々 のお調べを受けられよう」 　イ・ノ・ウ・エという言葉だけが、通辞のポルトガル語の中でまるで生きて動いているように司祭の耳に聞え、彼は体を一瞬、震わせた。

今さっきそこにあったかのように、はっきりと記憶に浮かび上がる

記憶が眠る山を鶴嘴（つるはし）で必死に削り、中から重要な情報を掘り出そうと試みる。

記憶を掘り起こす。

甘いコースに投げ込んで、特大ホームランを打たれたピッチャーの心境かもしれない。思いっきり目が覚めた感じ。

（思い出しながら話す）一語一語を確かめるようにゆっくり話す。

楽しかった時間の輝く結晶が、記憶の底の深い眠りから突然覚めて、今、私たちを押した。新しい風のひと吹きのように、私の心に香り高いあの日々の空気がよみがえって息づく。

瞳の底によみがえる

（庭のデッキ・チェアで目を閉じて思い出そうとする）猫の姿を頭に思い浮かべようとしたが、実際に僕が思い浮かべることができるのは、逆光を浴びた写真のようなひどく漠然とした猫の像にすぎなかった。強い太陽の光が瞼をとおり抜けて僕の暗闇を不安定に拡散させていたし、それに僕はどれだけ努力しても猫の姿を正確に思いだすことができなかったのだ。