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「さて、記憶とはあやふやなものです」響野はつづける。「脳の中にノートブックがあり、中を覗いてみると、思い出すべきことが日本語で丁寧に描かれている。大事なところにはマーカーまで引かれている。そんなことは決してありません。記憶というのはしょせんは脳の中のシナプスの伝達活動によって生じるものです。シナプスの電位変化が記憶となるのです。何年経っても同じ形状で残っている保証はどこにもないでしょう。それこそ記憶とは、思い出そうとしている今この瞬間の自分によって新たに創り出された、『記憶と思われるもの』にすぎないのです。創造物です。まさに、『歴史』が、権力者によって捏造された共通認識であるのと似ています。記憶は生のまま氷温保存されるわけではないのですよ」
伊坂 幸太郎「陽気なギャングが地球を回す (祥伝社文庫)」に収録 ページ位置:22% 作品を確認(amazon)
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忘れる・思い出せない・曖昧な記憶
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前後の文章を含んだ引用
......は積まれた紙幣に目をやり、うっとりするように静かに瞬きをする。 久遠が駆け寄ってくる。蓋が開いたのを確認すると、ボストンバッグを開いて、紙幣を詰め込みはじめる。「さて、記憶とはあやふやなものです」響野はつづける。「脳の中にノートブックがあり、中を覗いてみると、思い出すべきことが日本語で丁寧に描かれている。大事なところにはマーカーまで引かれている。そんなことは決してありません。記憶というのはしょせんは脳の中のシナプスの伝達活動によって生じるものです。シナプスの電位変化が記憶となるのです。何年経っても同じ形状で残っている保証はどこにもないでしょう。それこそ記憶とは、思い出そうとしている今この瞬間の自分によって新たに創り出された、『記憶と思われるもの』にすぎないのです。創造物です。まさに、『歴史』が、権力者によって捏造された共通認識であるのと似ています。記憶は生のまま氷温保存されるわけではないのですよ」 久遠がひたすらバッグに金を詰めている。一つ目のバッグを閉じる。二つ目のバッグを開く。「ちょうど良いので言っておきますが、皆さんはおそらくこの後、警察に事情聴取......
単語の意味
シナプス(しなぷす)
シナプス・・・神経細胞(ニューロン)と神経細胞の接触部。神経細胞が情報を伝達するための中継役。
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忘れる・思い出せない・曖昧な記憶の表現・描写・類語(記憶のカテゴリ)の一覧 ランダム5
話したか聞いたかした内容のひとひらだけが、ちらりと脳裏を思わせぶりにゆくことがあり、それをはっと掴むもそれは不思議なもんで、音声として再現される場合もあれば文字として現れることもあるのやけど、しかしその独立したひとひらだけがいつもなぜか思い出されるのであって、それをいつどこで誰といかように話して、その会話なり対話なりがいったいどんな結びを得たかという文脈の累々は奇麗にぶち切れてあるので、じっさいに自分が誰かとした会話なのか、単に本で読んだだけなのか、テレビかなんかで耳に入っただけなのかの真相が壊滅的にはぐれておってそんな始末。
川上 未映子「乳と卵(らん) (文春文庫)」に収録 amazon
いつ忘れてもおかしくないくらい、遠くてあやふやな記憶だった。
小川洋子 / ダイヴィング・プール「完璧な病室 (中公文庫)」に収録 amazon
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歴史・時代の表現・描写・類語(歴史・時代・伝統のカテゴリ)の一覧 ランダム5
人の世のうつろいは飛花落葉のはかなさにひとしい
辻井 喬 / 暗夜遍歴 amazon
川が緩やかに流れるように、物事が繋がっていく
伊坂 幸太郎 / グラスホッパー amazon
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「記憶」カテゴリからランダム5
記憶の中から、光景が激しい光を浴びせられたように浮きあがってくる
中村 真一郎 / 女たち amazon
虹色の光の糸を集めて、記憶の薄絹を織る
大庭 みな子 / 三匹の蟹 amazon
「歴史・時代・伝統」カテゴリからランダム5
貴金属の鉱脈のような一脈の伝統
佐藤 春夫 / 田園の憂鬱 amazon
誰しもの心を揺り動かさずにはおかないような時代の焦燥
島崎 藤村 / ある女の生涯 amazon
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