虫のように身体をちぢこませると、ほとんど同時に息をひきとった。

すべての苦痛から解放され、音もなく死んでいる。

骨と皮みたいになって死ぬ

すさまじい形相で空をつかみ、のたうちまわって死ぬ

ひどく痩せて、糸のようになって死ぬ

死の 篩ふるい にかけられて、生き残った人たち

延子をなくしてから父上はすっかり老い込んでおしまいになった。

何かを言おうとして口を動かしている。しかし、かすれた声は不鮮明で、ほとんど理解することができない。

次第に楽になってくる。苦しいのだかありがたいのだか見当がつかない。水の中にいるのだか、座敷の上にいるのだか、判然しない。どこにどうしていても差支（さしつか）えはない。ただ楽である。否（いな）楽そのものすらも感じ得ない。日月（じつげつ）を切り落し、天地を粉韲（ふんせい）して不可思議の太平に入る。吾輩は死ぬ。死んでこの太平を得る。太平は死ななければ得られぬ。

涙を流して手を合わせてくれた。