巨大な水鳥の叫び声そっくりの音で追い抜いていくトラック

砂だらけの工事現場は、小さな砂漠に見えるときがある。私は砂漠をもがきながら沈んで行くキリンみたいなクレーンを見上げながら

あれは起重機ね、荷物が空へ上って行ったろう。

ボロ船のウインチは、脚気（かっけ）の膝（ひざ）のようにギクシャクとしていた。ワイヤーを巻いている歯車の工合で、グイと片方のワイヤーだけが跛（びっこ）にのびる。

その怪物のような図体

スモークガラスのSクラスベンツ

少年が少女を橇（そり）に誘う。二人は汗を出して長い傾斜を牽（ひ）いてあがった。そこから滑り降りるのだ。――橇はだんだん速力を増す。首巻がハタハタはためきはじめる。風がビュビュと耳を過ぎる。 「ぼくはおまえを愛している」 　ふと少女はそんな囁（ささや）きを風のなかに聞いた。胸がドキドキした。しかし速力が緩み、風の唸（うな）りが消え、なだらかに橇が止まる頃には、それが空耳だったという疑惑が立罩（こ）める。

車は夜の盛り場の渋滞に巻き込まれてのろのろと進んだ。

電車の扉が、風を噴き出すような音を立てて開く。

開けっ放した窓からしばしば汽笛が悪魔のように入ってくる