お節をつくり、荒ら家の畳を入替え、襖、障子を貼替える。これをしないと一年のけじめがつかず、さらにはまた、これから迎える新しい年への闘志がわいてこない。

暮れも押し詰まった底冷えの日

人波に師走の色が濃い

（師走のあわただしさ）こうした情緒など、いらぬというのならそれでもよいが、味わうことのできる人は、味わわない人よりも幸福なことはたしかだ。

（戦前の東京）冬至がすぎると、夜毎に冴えわたってきて、町には暦売りが出て来るし、町の物音がちがってくる。 　いまの東京の町の音は、車輛と工事の騒音のみになってしまい、これは春も夏も、師走だとて変ることがない。人の暮しにも季節がなくなってしまった。 　町をながすさまざまな物売りの声や、道行く人びとの声までも、大晦日へ向ってあわただしく、 「押しつまってくる……」 　のであった。

ナイロンの肌着や靴下のように、なよなとと滑っこい快さを感じさせる情緒

（師走のあわただしさ）こうした情緒など、いらぬというのならそれでもよいが、味わうことのできる人は、味わわない人よりも幸福なことはたしかだ。

谿谷（けいこく）にほとばしる清冽な水のような、勁（つよ）く奔流する情緒

夕焼け色の湖をバックにベンチに座っている二人に、リリカルなピアノ曲なんかをそっとかぶせてみる。

冬枯の庭はいつか潤い、こまかに木の枝などを眺めると、仄かな艶や芽のふくらみが優しい早春を感じさせる日であった。

街路樹の梢は、いつか靱（しな）やかな撓（たわ）みを持ち始めた。

冬の、あたたかい午後である。 　陽ざしが早春のそれのように、きらめいていた。

午前の日光のなかで静かに影を畳んでいた公孫樹（いちょう）は、一日が経たないうちにもう凩（こがらし）が枝を疎（まば）らにしていた。

カアーン。カアーン。 　霙（みぞれ）でも呼ぶように、灰色の冬の寒空に、鉦（かね）をたたいて歩く男がある。

（人と接することが苦手な女の居留守）突然ドアチャイムが鳴る。瞬間、目の奥で何かがパリンと割れる気がする。まぶたを強く閉じてそのまま動かずにいる。強姦される女みたいに。神経をドアの外の気配に集中する。もう一度音が鳴り響く。コンクリートの上で苛々と足を踏みかえるような微かな音。それでもじっと息をひそめていると、やがて通路を歩き去るゴム底の靴音がして、隣のチャイムが同じように鳴らされる遠い音が聞こえる。とめていた息が漏れる。たぶん戸別訪問のセールスマンか何かだ。

空気は澄（す）みきって、まるで水のように通りや店の中を流（なが）れましたし、街燈（がいとう）はみなまっ青なもみや楢（なら）の枝（えだ）で包（つつ）まれ、電気会社の前の六本のプラタナスの木などは、中にたくさんの豆電燈（まめでんとう）がついて、ほんとうにそこらは人魚の都（みやこ）のように見えるのでした。

笑わせるというのは、空気を作ること

春の晩のようなぬるい空気

会場が死のように凍りつく